NPOプレゼント講座2012 - トピック返信
【第4回レポート】地域課題解決のロールモデルを考える
前回までの3回の講座を踏まえ、第4回は地域課題解決のロールモデルを考えます。
当日の講座の様子をレポートします。

①ミニレクチャー「市民活動による地域課題の解決」
講師 静岡大学人文社会科学部  教授 日詰一幸 氏



地方自治体をめぐる環境の変化(1)
・地域社会を覆う問題が多様化し、解決方法を簡単に見出すことが難しい
・国の債務が1,000兆円
・少子高齢化の進展と地域の活力の減退
・行政主導型社会→地域生活者の創意と主体性が発揮できる社会システムへの転換の期待
・市民参加の活発化(多様化する市民ニーズのギャップを埋める)

地方自治体をめぐる環境の変化(2)
・地方分権改革の進展により、国・都道府県・市町の関係が「上下」「主従」関係から「対等」「協力」へ
・「新しい公共」という枠組みの提示

地方分権時代における地域的課題解決の方法
・官が主導する解決(夕張の教訓)

民ができなくなったことを官が引き受けざるを得ない構造を作ってしまった。背伸びしすぎた財政運営だった。現在人口は7万人から1万人へ。

・衰退した商店街(大分県筑後高田市の事例)

「昭和のまち」へ市全体で経済活性。自分たちが一番輝いていた頃を思い出し、昭和の風情を残した建築へ。郷愁を誘い、毎年20万人の観光客が訪れるようになった。

・合併をしないで自立を目指した村(長野県下伊那郡下條村)

村人による軽易な土木事業の実施。自分たちの村は自分たちで作っていかざるを得ない。地方交付税が切り下げられる中、官民の連携により4割削減されても大丈夫な構造を作った。

地域を相互につなぐ役割の重要性
・地域SNS等双方向のコミュニケーションツールを使うことで、情報発信、情報交流、意見交換が可能になった。
掛川市の「e-じゃん掛川」の活用事例紹介。ネットとリアルの両方の交流が大切。ITリテラシー向上の場を設けることも重要。
・武雄市では、ホームページをフェイスブックに。道路陥没を見つけた市民が写真付きで投稿するなど、市民情報により行政サービスの向上にも役立っている。アクセス数はホームページ時代の2万から330万へ。

掛川市の事例として
・倉真地区の防災の取組み

地区・市民団体・行政の連携と、地区を越えた連携(山の間伐材を海岸保全の粗朶として活用。同じ市内で海山の連携)

・原田地区の取組み

世代間交流スペース+学童保育+デイサービス

むすび
・市民、町内会、自治会、市民活動団体、専門家、企業等が地域課題の解決にかかわる仕組みを作ることが大切
・市民一人一人が「人任せ」ではなく自分のこととして受け止めることが、住みよい地域社会の創出につながる。

②パネルディスカッション 「地域課題解決のロールモデルと担い手」
コーディネーター 静岡大学人文社会科学部 教授 日詰一幸 氏
パネリスト  御前崎災害支援ネットワーク 会長 落合美惠子 氏
        遠州横須賀倶楽部  大番頭 鈴木武史 氏
        磐田市田原地区社会福祉協議会  会長 松下忠夫 氏



■一緒に活動していく人たちを、どのように巻き込んでいきましたか?

落合 御前崎災害支援ネットワークは立ち上げて6年目。会員は個人が40名、企業が30社ほどです。理事に災害ボランティアの方や障がいを持つ方がいるなど、多様な参加をしていただいています。自主防災の場で「専門的な知識を持ったボランティアを連れていきます」とか「力仕事のできる人を連れていきます」など伝えることで、少しずつ活動を理解していただいているのかなと思います。



鈴木 遠州横須賀倶楽部は、「組織」「団体」というより「仲間」です。昭和62年に47人でスタートし、今45名くらいです。いつも出てくれるのは数名ですが、あとは会費を入金してくれるありがたい賛助会員さんですね(笑)。
仲間は「やってくれそうな人」を一本釣りしています。この20数年の活動の中で、周囲の町民、外部の人など、だんだん協力者、理解者が増えています。理解してもらえて好きなことができるのは、本当にありがたいことだと思っています。



松下 田原地区の社会福祉協議会として、地域のまちづくりと住民の絆づくりをベースに活動しています。地域活動は顔見知りになることが大事です。活動の告知は地域住民への配布物が基本ですが、参加しやすいイベント、活動などを常に心がけています。



■地域の人と結びつくような具体的な活動をご紹介下さい。また、その財源はどうされていますか?

松下 子育て支援活動や放課後児童クラブの運営、あいさつ運動や青パトによる防犯パトロールなど、幅広い活動をしています。活動を幅広くすることで、幅広い層の参加があるような気がします。
財源については、磐田市社協からの補助金もありますが、私たちはあくまで地区の社協なので、一戸あたり400円の拠出金を負担してもらっています。

鈴木 「ちっちゃな文化展」の一番の協力者は、やはり家を貸してくれるまちの人ですね。初めてのときも、27軒中26軒の人が「よくわからんけーが、まあ、あんたらのやることなら応援するよ」と、自分の家の居間や玄関を貸してくれました。
このイベントの嬉しいところは、いいお客さんがついてくれたことです。駐車場のトラブルなどもほとんどありません。当日10人のスタッフでまわしていけるのも、お客さんの質が高いからだと思います。作家さんも含め、そうしたいい人の輪がどんどん広がっていった感じです。
遠州横須賀倶楽部は、基本的に補助金をもらわないスタンスです。この「ちっちゃな文化展」は市からの補助もいただいていますが「金は出しても口は出さない」関係づくりができているのかなと思います(笑)。

落合 私たちの目的はあくまで減災なので、一人でも多くの人に生き延びてもらいたいという思いで啓蒙活動をしています。災害ボランティアは全国区の活動なので、いざ災害が起きたら御前崎に駆け付けてもらえるように、横のつながりも大切にしています。
運営は現在、会費と寄付金での運営です。東北へのボランティア活動など、より具体的な活動のときには寄付が多く集まりやすいのかなと感じます。現物での寄付も多く、助かっています。例えば、建設会社さんから一輪車の寄付があるとか。

■今回、パネラーとしてお願いしている皆さんは、市民活動としては成功している方たちだと思いますが、その成功の要因は何だと思われますか?

鈴木 成功しているところだけが注目されがちですが、実際は失敗の方が多いです。気をつけてきたのは「横須賀流でやってきた」ということです。当番制も役割分担もしない。やりたいことをやりたい人がやってきただけ。これは「組織」ではなく「仲間」だからできたことかもしれません。
あと、行政はこのイベントに何人来たとか、延べ人数を大事にするけれど、われわれは質のいいお客さんが、何時間でも滞留してもらって、イベントがないときでも何度も来てもらえることの方を大事にしています。「ちっちゃな文化展」の「ちっちゃな」は、固有名詞で呼び合えるようなつながりを大切にすることですから。

落合 成功しているかどうかはわかりませんが、大事なのは長である自分の心がブレないことだと思います。みんなが危機感を持っていたからこそ、それに対しての賛同者が集まり、協力者ができたのだと思います。

松下 田原地区にも新興住宅地ができて、今までの「知っている人だけ」の活動ではなくなりました。若い人が増えてきたので、その都度、みんなで討議しながら手直しをしながらやっています。時代や人に合わせて変わっていくことも必要だと思います。

■市民活動をしていると、皆さん、課題として抱えていると思いますが、後継者の問題はいかがでしょうか?

松下 現役を退いて、地域のために何かしたいという人たちを受け入れられる場づくりを考えています。

落合 子どもを持っているお母さんたちが参加しやすいような仕組みを考えようとしています。

鈴木 遠州横須賀倶楽部は「仲間」なので、後継者も新陳代謝も必要ないと思っています。私らは20代ではじめて今50代になり、それでも30年継続してやってきました。いろいろな考え方があると思うけれど、できるところまでやればいいと思っています。「継続」が「目的」になったら、中身が変わってしまいますからね。
もし「ちっちゃな文化展」がなくなったとしても、まちをこんなふうに使えるんだという方向性を示せただけでもよかったと思います。あとは、若い人たちがどうやってくれてもかまわないと思っています。

■行政との関係はいかがでしょうか

落合 県の担当が危機管理だったり防災だったりするのが、市に降りてくると福祉課にまわされて、うまく伝わらないというジレンマは感じたことでもあります。そうした矛盾には苦心しています。

鈴木 「できのいい行政職員と補助金は麻薬のようなものだ」と思っています。「切れるとおしまい」なので、自分たちだけでやるというスタンスでいます。

松下 あくまで地区社協は自主活動です。市の社協にしばられている感じはありません。助成金があるうちはありがたく使わせていただきながら、形は変わっても、やっていきたいことは継続して実施していきたいと思っています。

■皆さんのお話を伺って、ポイントをまとめてみたいと思います。



お話を聞いて思うのは、うまくいっているところは地域の人にうまく活動を伝えていて、支援の輪が広がっているところです。鈴木さんもおっしゃっていましたが、まわりの理解は大切な要素です。そのためにも、活動が発信されていくことが大事です。周囲との信頼関係、人間関係づくりが結局は大切だということです。

あと、落合さんがおっしゃっていましたが、想いがブレないことですね。

そして、次の世代に引き継ぐためにも、常に関心を持ってもらう下地づくりが大切ですね。これは、松下さんの田原地区の活動が参考になると思います。

企業との付き合い方も大事ですね。落合さんのところは、約70の会員のうち30社が企業だとおっしゃっていました。市民活動は行政とうまくやっているところは多いですが、企業とうまくつながっている事例だと思いました。

今回のNPOプレゼント講座は、市町の枠を越え、「中東遠」という枠組みに広げることで、それぞれの活動が広がり、つながりも広まり、さらに自分たちの活動が深まるという可能性を感じました。そういう意味で、様々なことが共有できるこうした「場」が大切だと思いました。

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【第4回レポート】地域課題解決のロールモデルを考える - 13/01/31 14:15 (中東遠地域づくりシンポジウム実行委員会)