NPOプレゼント講座2013 - トピック返信
【第1回レポート】自然を守る活動から
第1回NPOプレゼント講座のテーマは「自然を守る活動から」です。
講師の皆さんの印象的な言葉をレポートします!

【1】ミニレクチャー
「地域資源の有効活用で生まれる地域循環」
講師:NPO法人みらいアース副理事長 長島康男 氏

■はじめに
・自然とはそもそも何か。山、川、海などもともとあるもので、人工物でないもの。では、田んぼや植林された森など、人の手が加わったものは自然とは言えないのか。いや、私はそれも自然だと思っている。
・人間の都合で物事が進んでいく時代に、人間と植物が共生していく方法を模索したい。



■みらいアースの活動
(1)農地、道路、河川周辺の除草
・草刈りは危険で重労働。地域住民の高齢化や「草刈りは農家の仕事」という見方もされている中、草刈りが環境を整えるということを、多くの人に知ってほしい。



(2)耕作放棄地の解消
①土地や周辺の状況調査(従前の作付状況、土壌診断、用水等の施設整備の状況、隣接地の作付け状況)

②普通畑の取り組み
・草を刈ってみると、たくさんのゴミが捨てられていた
・正常な土に戻すため、土の中の微生物を増やす取り組み
・生産する植物にあった施肥
・土の力を戻すため、何度もすき込みをして土づくり
・「この土地をよみがえらせよう!」の看板設置
・周囲の草も管理

③茶畑の取り組み
・荒れた茶園は大変
(茶の木はなかなか切れないので機械の力も借りる。茶園は酸性土壌であり、砂利もあるため、土づくりに時間がかかる。お金もかかる)
・水底土砂を入れることで、天竜川のミネラル豊富な土が入る
・オリーブを植えることに決定
・虫よけのためにアップルミントとマリーゴールドも植える
・害虫対策だけでなく、風対策も自然に沿う形でやりたい

(3)オリーブの里づくりプロジェクト
・オリーブの苗づくり。今年50本植えた。来年以降150本ずつ増やしていきたい
・オリーブの里親制度(苗木3,000円)をスタート
・苗木の植栽やマイオリーブでの搾油体験などを企画している

(4)草刈りは「地域環境を保全する活動」
・草刈りが価値のある仕事として認識され、雇用が生まれるよう、各方面に働きかけている

■おわりに
・自然と向き合う暮らしの中で、これからも「自然とは何か」を考えていきたい。


【2】事例紹介
「世界農業遺産となった伝統技術『静岡の茶草場』」
講師:静岡大学農学部教授 稲垣栄洋 氏



■はじめに
・江戸時代から日本では、「土づくり→植物を育てる→資源として活用→土に戻す→土づくり」という循環の中で暮らしてきた。自給率100%であり、昔の暮らしには学ぶべきことが多い。今、それを現代版にアレンジしていくことが必要。

・静岡県はその知恵をうまく使った事例がある。それが、世界農業遺産になった「茶草場」。我々には、茶畑のまわりに草が生えているのは「当たり前の風景」に見えるが、海外の研究者には「こんなすごいところがまだあったなんて!」と驚きの対象となる。

・茶草を茶畑の畝間に敷くメリットとして、①雑草をおさえる、②乾燥を防ぐ、③土がよくなり、お茶の味や香りがよくなる、ということがある。しかし、これらの作業は重労働。今は簡単で安い肥料もあるけれど、静岡県ではいいお茶を作ろうと茶草を続けてきた。「静岡のお茶は、てまひまかけていいお茶を作ってきた」ともいえる。



■自然との適度な関わりの中に、自然と共に暮らす人の姿が見えてくる

・昔は日本中どこにでも見られた風景。例えば、広重の浮世絵「日坂宿の夜泣き石」には、山を描いたところがあり、そこに木はあまり生えていない。それが茶草場。草地だったことがわかる。桃太郎の昔話には「おじいさんは山にしば刈りに」というフレーズがある。これは山に生えている草や背の低い木を刈りに行っていたということ。静岡県は、昔ながらの方法が21世紀になっても受け継がれている。

・昔から人は、山から草(肥料や動力源)、薪(エネルギー源)、木材(建築)などとして、暮らしに活用してきた。それが、1960年代のエネルギー革命によって使われなくなり、草地もなくなり、山はスギやひのきなどの人工林となった。しかし、静岡県はお茶のために残した。特に掛川市の東山地区では、茶園100に対して茶草場が71もある。

・草を刈った日当たりのよい草地には、里山の植物が見られる。300種類以上の貴重な草原性の植物がある。
カワラナデシコは大和撫子とも呼ばれ、ササユリは小百合という名に、ツリガネニンジンはカムパネルラとも呼ばれ、宮澤賢治の「銀河鉄道の夜」の登場人物の名にもなっている。昔から日本人が親しんできた花が、茶草場の周辺にあるということ。

・秋の七草がすべてそろうのは、日本でも2ヶ所だけ。その一つが掛川市東山地区。
ヤマハギ、ススキ、クズ、カワラナデシコ、オミナエシ、フジバカマ、キキョウのうち、カワラナデシコ、オミナエシ、フジバカマ、キキョウの4種は絶滅が心配されている。



・「草を刈る」という昔からの方法が守られていることが、秋の七草を守ることにつながっている。これは不思議。刈ると自然を壊すイメージがあるが、「植物の種類は適度な自然との関わりで最大となる」という「中程度撹乱仮説」がある。

・「中程度撹乱仮説」がある。これは、人間が自然に関わり過ぎても、関わらなさ過ぎてもだめという説。まず、関わり過ぎると取りすぎてだめになる。逆に関わらなさ過ぎると、強いものしか残らない。たとえば田んぼが耕作放棄地になると、ヨシしか残らずヨシハラになってしまうし、ヨシハラに住めるものしか残らない。人の手が適度に加わることで、すみれ、ぺんぺん草など、小さな植物、弱い植物でも生育できるようになる。
そしてそこには、自然との適度な関わりの中で、自然と共に暮らす人の姿が見えてくる。
植物だけでなく、赤とんぼやめだかやホタルなどは、人の暮らし、里の暮らしの近くにある。



■「静岡の茶草場」が世界農業遺産として認められた理由
・茶草場という農業の技術、システムによって、生き物や文化が守られているのが素晴らしい。

・茶草場の価値
①良質な茶を生産するという「農業生産性」と「生物多様性」が共存
②近代化した先進国の農業の中で、生物多様性が守られている
③特別な場所ではなく、昔からの農村の土地利用

・生き物を守るために保存したり、農薬を減らす目的のためにこの農法をしてきたのではなく、昔から当たり前にやってきた農法が「いいお茶を作る」ことにつながり、農業を頑張れば頑張るほど環境にもいいという、その両方にいい仕組み、システムであることが素晴らしい。世界的にも例が少ない。

■各地の茶草場
①茶草場のハリウッド:掛川市東山地区
同じ一つの山(粟ヶ岳)に、人が手を付けない自然(阿波々神社周辺の古代からの森、鎮守の森、水源としての森)と、人が手を加える茶畑や茶草場の両方がある。

②茶草場バレー:掛川~金谷
JR東海道線の両側の山が両方とも茶草場になっている。

③棚田も世界農業遺産:菊川市
千框(せんがまち)の棚田にも茶草場がある。

④天空の茶草場:川根本町
日当たりがいい。

⑤茶草場の原点:浜松市水窪地区
傾斜40~50度。険しくて作物を育てるのに大変なところ。
寒い冬にはサトイモなどを保存する芋穴になる。草を刈ってあるから日当たりがいい。春には山菜、リンドウなどもとれる。

■おわりに
・「静岡の茶草場」は、地域循環のいい事例。
・人々の暮らしや近代化によって失われてきた当たり前の農法が、茶栽培のために守られた。
・そうした昔から営まれる農法によって、秋の七草に代表される生物多様性が守られている。



【3】現地研修:NPO法人みらいアース活動場所


耕作放棄地の茶畑がオリーブ畑に


虫よけのためにアップルミントとマリーゴールド


活動の様子を紹介

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【第1回レポート】自然を守る活動から - 13/10/02 11:34 (中東遠地域づくりシンポジウム実行委員会)