まち本!の「金融、経済を考えるとき、いちばん簡単でいちばん大切なこと ~杉本周造さん(掛川信用金庫顧問)~」
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金融、経済を考えるとき、いちばん簡単でいちばん大切なこと ~杉本周造さん(掛川信用金庫顧問)~
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2010年11月02日 17:10
前回の取材で、「世界が難局の時代だからこそ、学び、考えることが必要だ」とおっしゃった杉本周造さん。掛川信用金庫の理事長として、また掛川商工会議所の会頭として、長年掛川を見続けてきた人である。
インタビューの折り、杉本さんが何気なく発した言葉がずっと残っていた。

「今の時代、人は、お金があれば何でもできると思っている」
「お金より大切なことを忘れている」

経済主義、市場主義優先の社会の中で、私たちはいったい何を見失ってしまったのか――。
お金より大切なものとは何なのか――。
日本振興銀行の破たん、武富士の会社更生法申請など、金融に関わる様々な社会問題が起こる中、お金を預かり、お金を貸す、という立場の信用金庫の顧問として、今、どんなことを考えているのか、あわせて杉本さんの考えを伺いたいと思った。

「取材依頼書」を携えて伺うと、杉本さんは穏やかな笑みを浮かべながら、淡々と話し始めた。

金融、経済を考えるとき、いちばん簡単でいちばん大切なこと
杉本周造さん(掛川信用金庫顧問)


■お金とは何か
アメリカのオバマさんは、ずいぶんと報徳的な考え方をする人だなあと思いましたね。今までは借入れをして消費をする時代だったが、これからは、貯蓄をして投資をする時代にすると言っている。

私たちが考えなければいけないのは、まず「お金とは何か」ということでしょうね。
昔は、価値のあるものがお金だった。金貨とか銀貨とか、はじめは貝とか……。昭和の初め、世界恐慌までは中央銀行の出す紙幣が価値のあるもので、中央銀行の出す紙幣はいつでも金に変わった。それが世界恐慌になり、イギリスが最初に金本位制をやめ、紙幣を金に変えることをやめてしまった。
それから80年が経ち、「お金とは何か」ということが、昭和の世界恐慌前と今の時代とではまるで変わってしまっているんです。
今は誰でもお金が作れる。ローン会社に行ってお金を借りればすぐにお金ができるんです。中央銀行でなくても。

コンピュータ社会になり、インターネット時代になり、金融機関の組織としてのあり方も変わってきました。昭和の初め、大銀行は個人取り引きはしませんでした。人件費をかけて零細なお金の出し入れをしていたら勘定に合わないわけです。だから、財閥系の銀行は財閥企業との取り引きが主体で、中小企業や個人は金融にものすごく不便だった。だからみんなで何とかしようと産業組合や信用金庫ができ、郵便局が津々浦々にでき、個人貯金を預かります、となった。そういう時代だったんです。
ところが、コンピュータ時代になり事務処理が人手をかけずにできるようになると、大銀行が個人領域までどんどん入っていった。月給は紙幣ではなく通帳上の数字になり、税金も買い物もすべて数字が動くだけ。紙幣はなくてもよくなった。それでも働いて月給でちゃんとやっているうちはいいけど、自動車を買いたい、家を建てたい、ハワイに行きたいと、手元にお金がなくてもローン会社に行けば簡単にカードで貸してくれるようになった。
お金とは、何なのでしょうかね。

イギリスが金本位を脱却したとき、「消費は美徳なり」というケインズ理論ができました。大勢の人がたくさん消費し、たくさんのお金が出回れば世の中の経済は活発になり良くなると。
お金の性質が変わってしまったのに、今でもケインズ理論を基本にした「低金利で資金量をたくさん社会に出せば景気は良くなる」といっている。さっぱり良くならないですね。
私たちが大学の頃は、「入(い)るを図って、出(いず)るを制す」が財政学の基本姿勢でした。でも、今は逆ですね。「出(いず)るを図って、入(い)るを制す」。これだけの財政支出が必要だから、お金をどこからか持ってこようと……。
今の時代、ケインズ時代の理論をそのまま持ってきたのでは間違っているのではないでしょうか。新しい理論が必要なのだと思います。
そうすると、報徳が復活するかもしれない。それは、オバマさんの考え方が近いのではないでしょうか。経済界が受け入れるかどうかはわかりませんよ。これは、私の独断と偏見の理論ですから(笑)。

■本来の仕事を考える
二宮尊徳は、お金は金貨銀貨と同じように価値のあるものだから、しっかり働いて稼いで、稼いだ範囲で生活して、余剰を出して将来に備え、さらには推譲しなさいといった。
私が思うに、尊徳は本当に民主主義者だったのだと思います。将軍であろうと大名であろうと侍であろうと、商人だろうと農民だろうと、皆、同じことをやれといった。大名だからこうしろとか、将軍だからこうしろとはいわない。みんな、至誠勤労分度推譲だと。

今は、国が何をするのかがはっきりしない。国とは何か、政策とは何か、ということです。選挙に勝つようなことをやればいいのではありません。
袋井の設計士さんが防災の専門家なのですが、こんな話をしてくれました。去年の地震のとき、学校の校舎の天井が落ちた。たまたま生徒のいないときだったからよかったけれど、授業中だったら大変なことになっていたと。けれど、危険校舎を直すとなると大変なお金がかかるわけで、どうしたらいいかと相談されました。しかし、それは国や公共団体の仕事です。そのように、やるべきことはたくさんあるんです。今、国は何をなすべきか、本来の仕事は何なのかを、もう一度考えるべきです。

環境問題、環境問題といいながら、毎朝、道路の渋滞状況の放送があるわけです。あれこそ環境破壊も甚だしい。どうして何年も同じ放送をしているのか。高速道路料金をまけるより先に、渋滞を緩和する方が先だと思います。特に静岡県の場合、安倍川、大井川、天竜川で渋滞するんです。橋を掛けるのは、国や県がやってくれなくちゃできないわけです。何が自分の仕事なのか。これも、二宮尊徳の教えですね。

私の勝手な考えですが、現代において報徳思想をどう言い表し、どう指導力をつけていくか、また一般の方々にどう関心を持ってもらい理解してもらうのか、それこそ今の報徳の使命だと思います。
「報徳」という言葉を使わなくても実践されている方は、実業界にも政界にも大勢います。私も、若い頃は「報徳なんて古臭いものだ」と反発を感じていましたが、年をとるにつれ、「なるほどなあ」と思うことがたくさんあります。

二宮尊徳は、金利は取らなかった。例えば、貸したお金を5年で返してもらうだけでいいじゃないかと。借りた人がお礼だといって1年分を余分に持ってきてくれたのなら、それでいいじゃないかと。
金利とは何か、利子とは何かということですね。
私は、お金というものを預けてくださる、貸してくださる、そのお礼が金利だと思うんです。だから、金利が安いということは「借りたものに値打ちがない」ことでもある。ゼロ金利なんていってますが、それは値打ちがないということではないでしょうか。値打ちがあれば、お礼をしたくなる。
だから、「金利が低ければ消費が進んで投資が活発になって経済が活性化する」という考え方が本当に正しいのかどうか、私は考えてしまいます。お年寄りは今までの蓄積がありますから、金利が高ければ気前がよくなります。今は金利がつかないから、元手のお金を大事にしてお金を使わなくなっている。
金利の働きを重視すると、低金利の方が消費が進む、投資が進む、ということになりますが、そればっかりでいいのでしょうか。金利とは何か、という本来あるべき姿を考えてみる必要があるのだと思います。

■日本振興銀行の破たん、ペイオフの問題について
金融に関わる問題を見るにつけ、金融機関は何をするところなのか、金融機関の使命、機能とは何なのかという「あるべき姿」を考えずにはいられません。企業は企業の社会的責任がある。金融機関の社会的責任は何かということです。
お金を預かって貸し出しするのが金融機関です。預かったものに対する責任、貸したことに対する責任、その両方の責任を金融機関は持たなくてはならない。それをしっかりやっていれば、ペイオフなんて問題は起こらない。お金が儲かればいい、利益が上がればいい、という考え方だと間違えてしまう。

今度の世界不況のきっかけになったサブプライムローンの問題、僕はわからないんですがね、住宅ローンを担保にして作ったデリバティブ(金融派生商品)とはどういうことなんでしょうかね。住宅ローン借りた人は、誰に返せばいいんでしょう。これはどういう商品で、どう宣伝して、世界中の金融機関に売り込んだんでしょう。全くおかしな話になっている。
自動車ローンにしても、自動車メーカーの子会社がローンを出せば、ローンを回収することより会社の車を高く売ることの方が重要になってしまう。消費者が小型の車がほしいといっても、大型の車を勧める。消費者が必要かどうか、返せるかどうかよりも、より高額な車を売ろうとする。
貸す、借りる、それぞれに責任を持たなくてはいけない。日本振興銀行はどうだったのでしょうかね。昔は、事業に失敗すると社長さんは丸裸になっていた。
「あるべき姿」を、もう一度、考えてみる必要があると思います。

世の中が進んで、非常に進んで、世の中の仕組みのどこかに、つじつまの合わないところが出てきたんじゃないでしょうか。
経済にしろ、金融にしろ、生き方にしろ、常識とは何か、道徳とは何か、ということを考え直さなくてはいけません。儲かればいい、利益が上がればいい、という常識ではだめだということです。
常識とは、道徳であり、仁義であり、公共の利益であり、私の利益です。考え方がみんな違うように、何が道徳かという基本も一人一人違う。健全な常識なり、道徳なりを養うにはどうしたらいいか、ということです。

■心の持ち方、心のあり方を考える
今の日本の教育について、私はこの頃、悪口をいっているんですがね(笑)、今は知育と体育だけで、徳育がないと。
昔読んだ小説の中に、電車の中で足を踏まれたフランスの女性が「ごめんなさい」と謝る場面がありました。踏まれるようなところに足を出していた私が悪いと。今はなかなかそうした人はいませんね(笑)。
人の心の中に、「そんなことをしたら恥ずかしい」「こんなことをしたらお天道様に顔向けできない」といった心のありようが、少なくなくなってきているように思います。営利本位で、「恥」とか「恥ずかしい」という気持ちがなくなっている。「何をすれば儲かるか」で物事を考えるようになってしまっている。
健全な常識、ノーマルな道徳心というものをどうやって養成していくのかを、考えなければいけないのではないでしょうか。

榛村純一さん(元掛川市長)が「スローライフ」ということを言いましたが、「スローライフを日本語に直すと何というのですか」と聞いたことがありました。彼はしばらく考えていたが、私は「ゆとり」だと思いますね。靴を踏まれて「ごめんなさい」といった女性も、ゆとりがあるからそう言えるんです。私はそう解釈しています。自動車のハンドルに遊びがあるようにね。

そうそう、榛村さんとは「報徳を英語で言うと何になるのか」という話をしたこともありました。
報徳は、「徳に報いるに、徳を以ってす」ということですが、最初の徳はレゾンデートル(raison d'tre)、存在意義ですね。茶碗には茶碗の徳、いいものにも悪いものにもそのものの徳があるの「徳」です。そして、後の徳は美徳のバーチュー(virtuous)です。
こんなことを日々、考えているんですよ(笑)。

こうして、いろいろなことを考えていると、自分の考えにまた教えられることがあります。それがいいんですね。だから、聞いたこと、学んだことをそのまま受け入れるのではなく、自分の頭で考え、自分流に翻訳して発展させていくことが大事なことと思います。

道徳を根とし
仁義を幹とし
公利を花とし
私利を実とす
(平成22年9月27日 掛川信用金庫本店にて)


[前回の取材記事はこちらです]
世界が難局の時代だからこそ、学び、考えること
http://e-jan.kakegawa-net.jp/modules/topic/topic_vi…pcd=143682

取材レポート:いいじゃん掛川編集局/河住雅子

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Re: 金融、経済を考えるとき、いちばん簡単でいちばん大切なこと ~杉本周造さん(掛川信用金庫顧問)~
【返信元】 金融、経済を考えるとき、いちばん簡単でいちばん大切なこと ~杉本周造さん(掛川信用金庫顧問)~
2010年11月02日 17:42
いろいろと考えさせられます、杉本顧問のお話にはいつも。
自分の姿勢を今一度、見つめなおしてみます。
はい・・・
Re: 金融、経済を考えるとき、いちばん簡単でいちばん大切なこと ~杉本周造さん(掛川信用金庫顧問)~
【返信元】 金融、経済を考えるとき、いちばん簡単でいちばん大切なこと ~杉本周造さん(掛川信用金庫顧問)~
2010年11月02日 17:12
校正していただいた原稿を取りに行ったときの、杉本さんとの会話をご紹介します。


杉本 信用金庫も週休二日なので、その一日は自分が食べる野菜を作ったらどうだろうと言っています。

河住 職員の皆さんにですか?

杉本 ええ。今はお父さんもお母さんも違う職場にいて、子どもは学校に行って、暮らしがバラバラです。野菜をみんなで作れば共通の話題ができますからね。「キュウリが曲がっていた」とか、いいじゃないですか(笑)。生活の絆です。
土に接した生活をしていると、気候の変化、自然条件の変化に気づきます。農業なんてと軽くみてはいけません。農業は難しい。気を配ってちゃんとやらないとひどい目にあいます。私は大学を出るまで土をいじったこともないのに、戦争に負けて、銀行をやめて農業をやろうと帰ってきましたが、草を刈れば馬が食ったみたいだったし、お茶を刈れば虎刈りになってしまう(笑)。よく近所の女の人たちが笑っていました。

河住 私の知っている85歳のおばあちゃんは草取りがとても上手で、おばあちゃんが草取りをした後はなかなか草が生えてこないんです。

杉本 子どもの頃からやっている人は素晴らしいですね。今は機械が何でもやってくれる時代になっていて、人間の力がどんどんなくなっています。せめて家庭菜園をすれば、いろいろな変化に対応する力がついてくるんじゃないでしょうか。

いいじゃん掛川編集局/河住雅子