岩手日報 2012年9月19日付 朝刊 【合唱で地域を元気に】 〈皆で歌うことでつながりが守られる〉 夏の名残の日差しが照りつける土曜日の朝、釜石市鵜住居町の長内集会所は窓が開け放たれ、東日本大震災のチャリティーソングが漏れる。 「悲しみの向こう側に、花は咲く。いつか生まれる君に、私は何を残しただろうー」 同地区の仮設住宅などで避難生活を送る被災者ら13人が、心を込めて歌う。今年2月に発足した「うたっこの会」(田中シマ子代表)の活動は、地域住民が集い、心を合わせる貴重な機会だ。 同市で音楽教室を主宰し、現在同市天神町の仮設住宅で暮らす山崎真行(61)と詔子さん(59)が指導している。 震災前、鵜住居地区には「歌を楽しむ集い」というコーラスグループがあった。約20年前の結成から熱心に活動、県童謡団体連絡協議会などの大会に出場し活躍していた。 《震災で休止》 しかし、震災でメンバーが亡くなったほか、活動拠点だった鵜住居公民館が全壊。ピアノも流され、活動は休止した。 歌を楽しむ会の会長を務めていた竹内敦子さん(72)=鵜住居地区の仮設住宅で避難生活=は「避難所は皆バラバラだったし、仮設に入ってからは外に出ない人が増え、互いの顔も見なくなった」と振り返る。 そこで、メンバーだった田中代表は「鵜住居に歌を取り戻し、おなかから声を出して地域を元気にしたい」と、合唱を通じて長年付き合いがあった山崎詔子さんにピアノの入手を相談。 《ピアノ届く》 詔子さんはボランティアに来ていた神奈川県海老名市のカイロプラクティック施術者三田村真紀さんを通じ、同市のクラッシックバレエ講師から、使われていないピアノの寄贈を受けることになった。 ピアノは1月に届き、程なくしてうたっこの会の活動がスタート。自営業小山都美さん(64)=同=は「復興には地域の人が定期的に集まることが大切。まだ明るい話題は少ないが、皆で力を合わせて一歩ずつ進んでいきたい」と話す。 うたっこの会は当面大会などには出場せず、歌を楽しむこと自体を目標に据える。練習の後半は「ずいずいずっころばし」などの童謡を歌い、集会所に笑い声があふれる。 同市鵜住居町の吉田サトさん(72)は「回数を重ねるごとに笑顔が増え、みんな楽しく活動している」とほほ笑む。 指導する山崎真行さんは「皆で歌うことで地域のつながりが守られる。いつか新しい鵜住居に皆で戻るまで歌い続けてほしい」と、希望のタクトを振る。 《音楽の持つ力に注目》 芸術学部に在籍していた学生時代、「音楽療法研究」という講義を受けたことがある。 心に傷を負った子どもたちが、歌を歌ったり、楽器を演奏したりする中で回復していく様子を目の当たりにし、その効果に驚かされた。 音楽には人の心と体を癒し、元気づけ、健康にする力がある。 日本音楽療法学会は音楽療法士の資格を設けており、今回の震災でも多くの音楽療法士が被災者の心のケアに当たっている。さらに地域住民が集い、声をそろえて歌うことは、地域全体を勇気づけ、元気にすることにつながるだろう。 「うたっこの会」の取り組みは、全国の人々の善意がつながり、1台のピアノが寄贈されたことで復活した。 音楽が持つ力がもっと注目されて支援の輪が広がり、多くの被災地に明るい歌声が響いてほしい。 (報道部・太田代剛) ○○〈読者投稿〉 私は被災地の方々が笑顔で歌っている写真付きの記事を見て、とてもハッピーになりました。震災によって失われてしまった笑顔や音楽、人とのつながりを戻そうと活動している人によって笑顔が増えていると思うと、とてもハッピーになります。 震災があってから、ラジオやテレビで音楽のちからを感じることがたくさんありました。好きなアーティストが歌っている姿を見て勇気をもらったり、歌詞やメロディが心に響いて、笑顔になったり、歌で元気をもらう機会が増え、今もつながりを大事にし、笑顔で歌を歌っている人たちがとても素敵だなぁと思った。 笑いとは、人間だけがもつ人間の才能という言葉を聞いたことがある。これを聞いて、やっぱり笑顔でいることは素敵なことだと思ったし、周りを元気にするためにも自分たちも笑顔でいたいと思った。新聞には、皆で歌うことでつながりが守られると書いてあった。みんなで歌い笑顔でいること、私はこれを見てとてもハッピーな気持ちになりました。 及川明恵さん 18歳 岩手県 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |