一生懸命勉強して、立派な弁護士となり、 そこにいる人を必ず幸せにしてやってくださいよ。 第10作『男はつらいよ 寅次郎夢枕』から 今回は「寅さんの夢」からです。第10作『寅次郎恋歌』は、昭和初期のカフェーが舞台です。蓄音機から流れる音楽は、二村定一さんの「君恋し」です。1929(昭和4)年1月にレコード販売され、時代を象徴する流行歌となりました。 この夢は、シリーズでは坂東鶴八郎一座の座長役でおなじみの吉田義夫さんが、憎憎しい親分にふんして、女給のさくらに、酒を無理強いします。そこへ書生の博が「やめろ」と飛び込んできます。「君たちは人の心を金で買えると思うのか」と持ち前の正義感を発揮しますが、親分たちが殴る蹴るのひどい目に遭わせます。 そこへさっそうと現れたのが、船員服に白いマフラーの男。親分は「てめえ!マカオの寅!」と驚きの表情。「親分さん、やっとお会いできましたね。今夜、私の手で地獄へ行ってもらいますよ」。寅さんの夢だから、と言えばそれまでですが、とにかくカッコいいのです。 渥美清さんは子供の頃、世界航路の船乗り、つまりマドロスに憧れていたそうです。寅さんの見た夢は、渥美さんの抱いた夢でもあったのです。 「マカオの寅」のネーミングは、小林旭さん主演の日活アクション『マカオの竜』(65年)を連想させますが、寅さんには、「アクション」より「活劇」という言い方が似合います。 終戦後、GHQ(連合国軍総司令部)の意向で「チャンバラ映画」が作られなくなったときがあります。そのときに片岡千恵蔵さんや市川右太衛門さんが刀をピストルに持ち替え「多羅尾伴内」シリーズや『ジルバの鉄』などの「活劇映画」に主演していました。寅さんが子供の頃に、夢中になった活劇だったのでしょう。この夢には、それらの映画と同じムードがあふれています。 親分を倒し、刑事に捕まったマカオの寅は、さくらの恋人・博に向かって「そこにいる人を必ず幸せにしてやってくださいよ」と言い残します。実は、寅はさくらの生き別れになった兄だったのです。 この展開も毎度おなじみですが、第1作の「あにいもうとの再会」が、こうして夢の中で繰り返されるのは、やはり、妹を思う気持ちが、寅さんにとって一番大きいからなのです。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |