おまえは社長だろ、社長は上流階級だよ。 第11作『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』から 第11作『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』でリリー(浅丘ルリ子)が帰った後の茶の間の会話です。寅さんは夜汽車で見かけたリリーの寂しそうな姿について「言ってみりゃ、リリーも俺と同じ旅人さ」と、放浪者の孤独について語ります。 おばちゃんは、夜汽車では女性は「ご不浄に困っちゃうんだよ」と理解してくれません。寅さんは「つまり、おばちゃんのような、その中流家庭の婦人には分からないの」とあきれ顔です。 寅さんの口から「中流家庭の婦人」という表現が出てくるのが、なんともおかしいです。1958年に始まった内閣府の「国民生活に関する世論調査」で生活の程度に対する質問がされた頃から「中流家庭」という言い方が定着してきました。 高度経済成長を経て、『男はつらいよ』がスタートした翌年の70年には、9割もの人が、自分たちは「中流」という意識を持つようになり「一億総中流」が流行語となりました。 茶の間での「中流家庭談義」で、寅さんはタコ社長を経営者だから「上流階級」と断定してしまいます。そういう寅さんは自らを「俺は中流ぐらいのとこか」と思っているようです。では、何をもって「中流なのか?」その定義は曖昧です。 高度経済成長の日本では、車、カラーテレビ、クーラーの3Cを持つのが中流のステータスでした。しかしトランクが全財産の寅さんは、そんな面倒なものは持ち合わせていません。では寅さんは「中流」以下なのでしょうか? 博は「財産なんか持っていない人の中にこそ、本当に立派な人がいる」と言い、さくらは、寅さんはそういうものを持っていないけど「その代り、誰にもない素晴らしいもの持ってるもんね」と優しく言います。 その「素晴らしいもの」とは「つまり愛よ。人を愛する気持ち」のことです。リリーに恋をして、その孤独をともに分かち合うことができる寅さん。お金を出しても買えない「人を愛する気持ち」を持つ寅さんを、おいちゃんは「さしずめ寅は上流階級か」と言いますが、まさしく寅さんは人間として「上流」なのです。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |