〈特別篇〉寅さんの“家族の”ことば・満男のことば おじさんは、他人の悲しさや寂しさが、 よく理解できる人間なんだ。 第47作『男はつらいよ 拝啓車寅次郎様』から 博とさくらの一人息子・満男は、第1作のラストで誕生しました。変わらないことを身上とした「男はつらいよ」のなかで、子供から大人へとダイナミックな成長を遂げていったのが、満男です。第27作『浪花の恋の寅次郎』からは、それまでの中村はやとくんとバトンタッチして、『遥かなる山の呼び声』(1980年)で倍賞千恵子さんの息子役で出演した吉岡秀隆くんが演じることとなりました。吉岡君の成長とともに、満男の茶の間や、柴又のシーンでの役割が大きくなり、さくらとは違う意味での寅さんの理解者となっていきました。 中学生の満男が博とさくらに言ったことばです。「人におべっか使ったり、お世辞言ったり、おじさん、絶対そんなことしないもんな」(第36作『柴又より愛をこめて』)。高校生のときには、父親を亡くして、寅さんを訪ねて来た秀吉少年に「寅さんに会って、がっかりしたんだろう。でも、見かけほどひどくはないんだぞ、俺買ってるんだ、わりと」(第39作『寅次郎物語』)と、本音を交えて話します。そんな満男が、浪人生となり、恋をする年頃になったのが第42作『ぼくの伯父さん』でした。ここから、満男を中心とした新たな展開を見せました。 お世辞にも器用とはいえない満男の生き方に同世代の若者たちが共感して「青春映画」としても受け止められるようになったのです。 満男が大学を卒業し、小さな靴会社に就職して、それが果たして自分に向いているのか、真剣に悩む姿が第47作『拝啓車寅次郎様』で描かれています。 ラストに満男の独白があります。「おじさん、僕は近頃おじさんに似てきたと言われます。言う人は悪口のつもりなんだけど、僕にはそれが悪口には聞こえないのです」。続く「おじさんは他人の悲しさや寂しさが、よく理解できる人間なんだ」ということばは、車寅次郎という人物の限りない人間的魅力を、的確に言い当てているのです。 寅さんの行状を見て、ときにはそれに涙する母の姿を見てきた満男の、限りないおじさんへの愛と尊敬が、僕たちの心を熱くするのです。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |