おまえ今、なんでも欲しいものやるって言ったら、何が欲しい? 第26作『男はつらいよ 寅次郎かもめ歌』から さくらと博夫婦が結婚したのが、1969年のこと、以来、二人の住まいは、とらやにも近い、柴又四丁目のアパートでした。柴又駅から京成線の線路を高砂方向に五分ほど歩いた辺りにあったアパートで撮影が行われていました。 アパート名は変わりますが、第5作『望郷篇』から第25作『寅次郎ハイビスカスの花』まで、ほぼ同じ場所で撮影されていました。 さくらの部屋には電話もなく、いつも呼び出しでした。さくらは、得意の洋裁をして家計を支えていました。「潜水艦みたいなアパート」とは寅さんの見立てですが、博の夢は、小さくても家族が暮らせる一軒家を持つことでした。 博に限らず、日本のお父さんは家を持つことがある種のステータスであり、高度経済成長を支えてきたお父さんたちは、そのために懸命に働いてきたのです。 それまでも第9作『柴又慕情』で、おいちゃんや、タコ社長の協力で、なんとか家を持てそうになったこともあります。しかし、念願がかなったのは、80年の第26作『寅次郎かもめ歌』のときでした。寅さんが、そのさくらの新居を訪ねます。寅さんが考えていたほど、大きくもなく、立派な家ではありませんでしたが、さくらと博にとっては、楽しいわが家です。 新居の二階に上がった寅さん。満男の部屋の隣にある「この空き部屋なんだい?」とさくらに尋ねます。「それはね、お兄ちゃんの部屋。泊まる部屋があると安心でしょ」。しばらく間があって、下りてきた寅さんは「おまえ今、なんでも欲しいものやるって言ったら、何が欲しい」と精いっぱいの気持ちで、妹夫婦の優しい気づかいに応えようとします。 さくらは「やっぱりお金かな」とごく自然に答えるのですが、寅さんには先立つものがありません。そこで弟分の源ちゃん(佐藤蛾次郎)から借金するのですが、そのご祝儀が次なる騒動のきっかけになります。 ともあれ、いつもさくらは寅さんのことを考え、寅さんもまたさくらを想っているのです。「あにいもうと」の兄妹愛を感じさせてくれる素晴しいシ-ンです。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |