男の子はね、おやじとけんかして、家を出るくらいでなきゃ、 一人前とは言えません。この私がいい例ですよ。 第32作『男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎』から 寅さんは16歳のとき、父親と大げんかして20年、故郷柴又に戻りませんでした。その間のことは、映画では描かれていませんが、決して平坦な人生ではなかったはずです。 それゆえに、男の子はかくあるべき、ということばには、寅さんの人生経験が裏打ちされているような気がします。考えてみれば、洋の東西を問わず、波瀾万丈の人生を送るヒーローは、若いときに、なんらかの理由で家を出て、世間の荒波のなかで成長をしていきます。 チャールズ・ディケンズの小説「デイヴィッド・コパフィールド」の主人公は幼くして家庭的な愛に恵まれず、苦労を重ねて大都会ロンドンへと旅立ちます。 また、映画「ダークナイト」シリーズの主人公でバットマンことブルース・ウェインも両親と死別し、大富豪でありながら、若くして世界放浪の旅に出ます。 「若い時の苦労は買ってもしろ」とは昔から言われることですが、寅さんや、古今東西の物語のヒーローは、総じて、家を出て苦労することで、大きな力を得て、再び故郷に戻ってきたときに周囲の人々を幸福にする、という展開です。 「男はつらいよ」シリーズが国民的映画と呼ばれるようになり、今なお愛されているのは、こうした「物語の主人公のセオリー」にのっとっているからなのだと思います。 さて、第32作『口笛を吹く寅次郎』は、備中高梁の蓮台寺で住職のまね事をすることになった寅さんの奮闘を描いた作品です。このことばは、マドンナでお寺の娘・朋子(竹下景子)の弟・一道(中井貴一)が大学を辞め、東京でカメラマン修行をしようと家出をしたときのせりふです。 寅さんは自分が父親とけんかした経緯をおもしろおかしく話しながら、自信を持って彼の家出について、心配することはないと、朋子に話します。さすが経験者、説得力があります。 そういえば、寅さんのおいの満男(吉岡秀隆)も、第42作『ぼくの伯父さん』で、初めての家出をしますが、初恋の女の子・泉(後藤久美子)に会いたい、という動機なのが、寅さんのおいっ子らしいです。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |