第三章 守る意識 難しい打球を簡単に捕る ピッチャーが打ち取った打球を、確実にアウトにする。 守備にとって一番必要な要素は何かと聞かれれば、その基本に尽きると考えている。テレビニュースや新聞で報道されるような派手なプレーにばかり目を奪われがちだが、ヒット性の当たりを飛びついて捕ったりするのは、内野手にとっては「最後の手段」といっていい。 難しい打球を簡単に捕っているように見せるのが、本当の意味でのファインプレーだからだ。 「相手のことを考えてプレーしなさい」 同志社大学時代に、当時の野口真一監督に何度も言われた言葉だ。相手のことを考えるとはどういう意味なのかを考えるきっかけになった。 ショートでのダブルプレーを例に挙げると、ショートゴロが飛んできて、普通に無理をせずに捕ってセカンドに投げてというタイミングの場合、セカンドがファーストランナーのスライディングで潰されてしまうことがある。そこでショートの自分が一歩でも前で捕って送球すれば、時間的にセカンドに楽をさせてあげることができる。 野球のレベルが上がれば上がるほど、その一瞬の差がダブルプレーを取れるかどうかにつながってくるからだ。 味方のピッチャーにとってはどうなのか。同じ二遊間への当たりでも、遊撃手が横っ飛びして捕ってアウトにしたのと、足を使って回り込んでアウトにしたのとでは、打たれたピッチャーが抱くイメージはまったく違ってくる。 「抜けていた打球だった。球が走っていないのではないか」 「思ったよりも打者が差し込まれていた。きょうは調子がいいようだ」 ヒット性の当たりでも、内野手が足を使って体の正面で捕ることができれば、ピッチャーには打たれた感覚は残らない。ヒット性の当たりが普通のショートゴロに見えたら、ピッチャーというのは打たれたことを気にせず、自分のリズムで気分よく投げることができると自分なりに解釈していた。 そのためには、足を使って打球の正面に入って捕り、投げなければいけない。そういう考えが、守備の技術につながっていったと思っている。 打ち取った打球を、確実にアウトにする。難しい打球を、簡単に見せて捕る。そういった積み重ねが投手との信頼関係になり、首脳陣から信頼を得ることにつながっていく。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |