伊達方で養豚業を営む川上経夫さんは73歳。養豚歴30年のベテランだ。
川上さんの豚舎にいる豚は、現在30頭。「昔よりだいぶ数は減ったな。今は暇だからやっているようなもんだで」と笑う。食の安全や地産地消への意識が高まる中、掛川フレッシュポークなど餌にこだわった地域ブランドを出荷する。
「昔はどこの農家でも、庭先で豚や鶏を飼っていたもんだよ。生活の中に家畜がいて当たり前。家畜の匂いを嗅ぎ、学校から帰れば『ただいま』と当たり前に豚の頭をなでていた。子豚が乳を飲む姿はかわいらしいなあと、ずっとながめていたもんさ。そうした当たり前に動物がいる暮らしの中で、お祝い事があれば鶏を絞め、命をいただくことに感謝する経験を積んだもんさ」
しかし、時代は養豚業にも生産性や効率性を求めた。
「経済優先の社会の中で、安価な輸入品が大量に入ってきて、その結果、大型の生産農家だけが残り、小さいところはどんどん淘汰されていった。庭先に当たり前に家畜がいる農家はどんどん減っていった」
日々の暮らしから家畜が遠ざかることは、生きている豚とスーパーに並んだ肉が結び付かない、命をいただく感覚が身近でなくなった、ともいえる。
「人も動物も同じ生き物。糞もすればおならもする。美味しいものは食べたいけど臭いのは嫌だ、というのはどこかおかしい。生き物の命をいただくということを、ちゃんと考えないといかんな」
優しいまなざしで豚たちを見つめる川上さん。豚舎をゆっくり見て回り、ときに豚のおしりをポンとたたき、母豚の乳に吸いつく子豚に微笑みを向ける。大事に育て、そして出荷する。もちろん豚たちに、名前はない。
「畜産業をされていて嬉しいのはどんなときですか?」
「美味しいといってもらえたときだ。そして、お金になったとき」
「どうして畜産業を始められたのですか?」
「そりゃあ、動物が好きだからさ」
「後継ぎはいらっしゃるんですか?」
「いや…。娘が一人いるけど、まあしょうがないね」
現在、川上さんの豚舎では、高級食材としても知られる中国の金華豚をもとにした品種が試験的に飼育されている。静岡県中小家畜試験場、掛川市とともに、近い将来、掛川産の豚としての販売を目指す方向だ。
「自然の中で動物と一緒にいられるのが何より嬉しい。愛だよ、愛」と笑う川上さんの大らかな微笑みが印象的だった。
※川上さんは、合鴨農法による有機栽培の米作りも行っている。
今年は15俵の米を収穫した。5キロ単位で購入でき、一俵24,000円、10キロ4,000円(精米した状態で)。なくなり次第、販売を終える。
また、米作りを終えた合鴨肉の販売を掛川で実現したいという動きも始まっている。
「合鴨が田んぼを作った自然米」[お問い合わせ先]掛川市伊達方910の1
川上経夫さん宅
0537-27-0019
取材レポート:いいじゃん掛川編集局/河住雅子