市民記者コーナーの「県内最後の櫛職人「はままつぐし」の心と技」
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県内最後の櫛職人「はままつぐし」の心と技
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2011年09月26日 20:00
 

 9月23日~25日の3日間 竹の丸で開催された「はままつぐし」の展示会に行ってきました。
 かの白洲正子さんも著書「日本のたくみ」等で絶賛されたという浜松木櫛三代目・故松山鐡男さんの作品や 出土品や宝物からの復元櫛の数々と、そのあとを継がれた四代目・松山順一さんの作品がすらり。
 恥ずかしながらプラスチックの櫛しか持たず、木櫛と聞いても「黄楊(つげ)の櫛」くらいしか浮かばなかった私には、新鮮で興味深い世界が広がっていました。

  

 松山鐡男さんが情熱を傾けた復元・複製作品は、縄文や弥生時代の櫛から聖徳太子や菅原道真の櫛、古代中国やサモアなど各国の櫛、さらには「美智子妃入内之節使用の櫛」や紀宮さまの「皇室着袴之儀式用の櫛」など、色も素材も形状も用途もさまざま。

 

 黄楊・竹・椿・象牙・金属など多様な櫛材がある中で、古来宮中で使い続けられているのが「檮(木へんに壽)」=イスノキなのだそうです。
 これは身分の高い者しか使えない櫛で、「延喜式」によれば、その頃の天皇はほぼ毎日新しいイスの櫛を使い捨てたのだとか。



 浜松市の無形文化財でもある名工・鐡男さんの作ったイスの櫛。
 優しく手に添うラインと深みのある色が素敵です。
 見た目の華やかさを競う飾り櫛とちがって、梳き櫛は使い心地がいのち。
 自作の鋸や道具で繊細な櫛歯を挽き、なめらかに磨き、艶を出す。

 「櫛は暮らしの道具。櫛職人はアーティストではない。使う人のことを第一に考える。
 黄楊の櫛を椿油に漬けて売っていたりするが、あれでは櫛は長持ちしない。
 木の艶は使い続けているうちに自然と出てくるもの。
 私たちは長く愛用してもらえることを大切に考えています」と四代目順一さん。



 こちらの額は、順一さんの人気作品「富嶽」と「宴」。
 どちらも小国神社のご神木であるイスノキから作られているそうです。
「櫛は本来日用品ですが、今の時代なかなか毎日使うという方はいない。
 引き出しにしまいこんでおくよりは、こうして額に入れて毎日目にする玄関などに飾っておくのが良いのかもしれませんね」と。
 櫛は元来神の力を宿す神聖な道具。
ご神木からとられた櫛ともなればなおさら神聖な力を秘めている気がします。
「そうして、毎日心を神様にむけることが良い暮らしを生み良いご縁につながるような気がします」とも。
 ここでいう神様は、擬人化された神々だけでなく、果てしない恩恵をくれる自然だったり ご先祖様であったり 先人たちの知恵だったりするのではないかと感じました。

 

 県内最後の櫛屋さんとなってしまった「はままつぐし」。
 美しく丈夫な材はもちろん、トクサ、鹿の角、ムクの葉、時計のぜんまい、など、身の回りにあるものに支えられた職人の技。
 でも、そういったものも現代では手に入りにくくなっているのだそうです。
 日本髪を結う人が減り 木櫛そのものの需要がなくなってきているだけでなく、それを作るための材料や道具も入手困難になり、伝統的技法では作りたくても作れない日が来るかもしれない。
 夏に取材させていただいた 掛川の葛布のお話とも重なり、素人ながらに美しき日本の伝統工業の行く末を案じずにはいられません。

 

 会場にはそういった歴史的資料や三代目・四代目の手がけた気品ある櫛だけでなく、小さな櫛や魚の形をしたストラップや帯飾り、ペンダントなど、「櫛で髪を梳く」習慣から離れてしまった私たちでも日常に使えそうな愛らしい小物もたくさん並んでいました。
 まずはこういった身近なものから、木のぬくもり、優しさ、巧の技を感じられるようになり、日本人が受け継いできた大切な暮らしの文化についてほんの少し考える時間をもつことも ひとつの小さな方法かなと思います。



 とても穏やかで柔和な表情の中にも職人としての真摯さがうかがえる松山順一さん。
 10月に横須賀で開催される「ちっちゃな文化展」にも出展されるそうですので、興味のある方はぜひ足を運んでみてくださいね。



                       

  「黄楊の櫛-それは私たちの祖先が千数百年前から慣れ親しんできた装身具であった。
   この頃はプラスティックに変わってしまったが、黄楊のやわらかな感触を知るものにとっては味気ない。
   同じ黄楊でも機械で大量生産したものと手で作った櫛の間には雲泥の相違がある。」 

                            白洲正子著「日本のたくみ」より



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Re: 県内最後の櫛職人「はままつぐし」の心と技
【返信元】 県内最後の櫛職人「はままつぐし」の心と技
2011年09月28日 19:22
横須賀街道ちっちゃな文化展での松山順一さんの出展情報をみつけました
http://www.kenkouikigai.jp/archive/02/028AHV5BXDRBPU.asp

展示期間 : 平成23年10月21,22,23日(金、土、日)
展示会場 : プラザ大須賀(掛川市西大渕字大工町4334)

お見逃しなく!
Re: 県内最後の櫛職人「はままつぐし」の心と技
【返信元】 県内最後の櫛職人「はままつぐし」の心と技
2011年09月27日 19:31
浜松市HPの市政映画で三代目松山鉄男さんの仕事ぶりが観られます
◇櫛に生きる(昭和53年 動画15分)
http://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/movie/sisei/s…51_s55.htm

You Tube にも同じ動画があるようです
http://www.youtube.com/watch?v=yiRQGUsEUp4