まち本!の「掛川発:お仕事アラカルト[茶箱職人]」
「掛川発:お仕事アラカルト[茶箱職人]」の書込一覧です。
新着返信
返信がありません
QRコード
掛川発:お仕事アラカルト[茶箱職人]
【閲覧数】1,938
2009年12月03日 12:53
まちの箱屋 ~茶箱職人という仕事~
茶箱職人 鈴木清吉(すずき せいきち)さん
 
遠州横須賀街道「ちっちゃな文化展」のとき、はじめて出会った茶箱職人。「まちの箱屋」として、56年間、茶箱を作り続けている鈴木清吉さんだ。喜寿を迎え、「若い頃に比べ仕事がのろくなった。今まで出来ていたことができんのは、じれったい」という言葉が印象的で、もう一度、取材に行きたいと思った。
11月のよく晴れた日、横須賀街道沿いの鈴木製函所におじゃました。仕事場には、木の匂いが満ちていた。


わしの孫じいさんが建具やをやっていてね、最初はいちご箱やメロン箱といった園芸用の木箱と鮮魚用の木箱を作っていたんだ。茶箱に変わっていったのは、大正末期から昭和にかけての頃かな。手のひら返すように変わったわけではなく、徐々にという具合に。わしは昭和7年の生まれだから、小さい頃はもう茶箱やだった。近所の衆から「箱屋」と呼ばれていた。



製造業という環境にいたから、ずっと茶箱づくりを見てきた。教わったわけではなく、見よう見真似だ。親は学校をおりるのを待っていたからね。
職人の仕事が好きだったかって?
今のように職業を選ぶという意識もなく、長男だから当たり前に家業を継ぐもんだと思っていたから、好きも嫌いもないさ。考えたこともないね。



茶箱を作っているときの気持ち?
そんなこと、考えたこともないさ。
まっすぐな箱ができてすごいって?
曲がっていたら、商品にならんよ。蓋(ふた)がきちんと閉まらなくて、ガタガタいうのをお客さんはいちばん嫌がるからね。ぴたりと収まるのは、当たり前のことさ。

茶箱を作る工程かね?
まず、仕入れた木のソリをなくすために干す。そのあと、カット。そうだよ、ここでカットするんだよ。
そしたら組み立てだ。組み立てが完了すると、内張りに亜鉛鉄板を入れて半田づけだ。半田を知らんのかね。この道具が半田だ。熱で溶かした半田を接着剤にして、茶箱の中面を隙間なく張り付けるんだ。そして、美濃和紙で補修して仕上げる。この美濃和紙は「もう手に入らなくなるかもしれん」と言われている。



どの工程が好きかって?
好きも嫌いもないね。自分の商売で「これは嫌だ、あれはいい」なんて言ってもはじまらんからね。
やりがいを感じるのは、大きな仕事をやり終えたときかな。以前には何百という注文が来て、やり終えたときには「やれやれ」と思うときもあったな。



ほれ、こんなふうに釘は真っ直ぐに打つだけでなく横にも打つ。横に打てば利くからね。
すごい? 全然すごくないさ。それほど精密な製品を作っているわけではないからね。極端にいえば、この箱一つ一つが違うんだから。
ん? 寸法の違う箱を、一つ一つピタリと収まりよく仕上げないといけないから逆に大変だ?
そんなもんかね。わしらは職人で言葉をよく知らんで、それはあんたがうまく書いてくれればいいさ。



だが……、まったく、なんだね。若いときはこうして右手で釘を打ちながら、左手で一度にたくさんの釘をつかみながら、次の釘を打てるように準備をしていたもんだが、今じゃあ釘一本つまむのも大変さ。仕事がのろくなったもんさ。「若い人と同じように仕事ができたら、若い人が辛がるで」となぐさめられるがね。だがやっぱり、出来たことが出来なくなるのはじれったいもんさ。

跡継ぎはいないよ。自分の代で終わりだと割り切っている。
本当は20年くらい前に、一度やめようと思って働きに出たことがあった。お茶屋に納品する茶箱だけは、仕事が少なくなっていたんだ。そうしたら、日本経済新聞に茶箱が収納ケースとして使うことが紹介されてね。杉の木は虫がつかないからね。木箱の良さが見直されたんだ。それで一般のお客さんからも注文が入るようになった。茶箱に好きな布を張ってね、自分の好みにするらしいんだ。
今は全国へ発送をしているよ。全国新聞の影響力というものは、すごいもんだな。



趣味?
よく聞かれるけれど、それがないんだなあ。酒も飲まないし、平凡な男だよ。
甘いものには目がないかな。いただき物のお菓子を全部食べてしまって、カミさんに叱られることもしょっちゅうさ。

今、遠州にある茶箱店で残っているのはうちだけだ。いつまでできるかわからんが、続けられる限りやろうと思っている。



遠州横須賀街道沿いには、箱屋、鍛冶屋など、様々な職人の仕事場が軒を並べていたという。鈴木製函所の表には、ソリをなくすために干してある木が並んでいる。重なり合うように立てかけられた木は、近所の子どもたちの遊び場だった。トンネルのようになっている隙間によくもぐり込んでいた。でも、子どもたちは決して仕事場の中には入らなかった。そおっと覗くだけで。
無口で怖がられていたという鈴木さんの表情から、「ここは真剣勝負の仕事場」という雰囲気を子どもたちなりに感じ取っていたのかもしれない。
鈴木さんは77歳。まちから職人の姿が消えている。手仕事のプロセスを垣間見る機会も、なくなっている。



鈴木製函所 鈴木清吉
静岡県掛川市横須賀310
TEL 0537-48-2150
FAX 0537-48-0130

[取材レポート:河住]


返信書き込みはありません。