まち本!の「活版印刷という仕事」
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活版印刷という仕事
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2010年05月14日 09:28
塩町にある高塚印刷所。昨年12月に廃業届けを出し、平成22年2月に最後の納品を終え、店を閉めた。
「デジタル製版が可能になり、現在の日本では活版印刷は絶滅に近い」(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より)といわれる中、昭和初期から活版印刷所を続けてきた。60年近く働いてきた高塚印刷所の職人さんにお話を伺った。

※ご本人の希望によりお名前は伏せさせていただきます。

紙に印刷されるまでの流れを教えてください。

まずは、版を組むことからだね。原稿にしたがって活字を選び、インテルで高さをあわせ、平面をあわせる。

インテルとは?

活字の組版に使う詰め物だよ。高さをあわせ、平面をあわせ、隙間を埋めないと絵にならないから、様々な厚みを持つ板で調整するんだ。



インテルで隙間を埋めていく……。パソコンの頭脳ともいえる「CPU」を作る会社と同じ名前なのが、不思議ですね。

そうかね。私らは、「インテル」「インテル」と当たり前に呼んでいるだけだからね。
で、次に文選箱に、活字とインテルで組みながら組んでいくんだ。基本の大きさが1で、半分が2分(にぶ)、4分の1が4分(しぶん)、8分の1が8分(はちぶん)だ。



だから、8たす8は4になり、4たす4が2になる。
若い頃はスーパーに買い物に行っても、日常生活の足し算と仕事上の足し算が、その場で切り替えられたけど、最近は混乱するんだ(笑)。おつりの計算を間違える。一種の職業病だね(笑)。

職業病といえば、版の漢字は鏡文字になっているだろう。だから、漢字の「へん」と「つくり」を反対に覚えてしまうこともあるんだ。「キヘン(木へん)」とか「ゴンベン(言べん)は分かりやすくていいけれど、距離の「距」とか、駐車場の「駐」の字とか、どっちが「へん」でどっちが「つくり」か忘れてしまうんだ(笑)。

たしかに、それは職業病かもしれませんね(笑)。
それにしても、すごいスピードで組み上げていきますね。活字にあわせ、すき間に入れるインテルの大きさを瞬時に判断し、組み込んでいく。目の前で見ると、スイスイ、スイスイと、ほんと職人技です!



そんな大層なものじゃないよ(笑)。でも、版を組んでいるときは、やっぱり面白いね。

版もたくさんありますね~。この中から必要なものを探し出すのは、途方もなく大変なような気がしますが。

画数順に並べてある。必ず元のところに戻す。落ちたりすれば、欠けてしまうこともあるから、慎重に扱っていた。
でも、去年の地震のとき(平成21年8月の駿河湾沖地震)……。何をさておいても版のことが気になって、見に来たんだ。そうしたら、版がざくっり落ちていた。普通だったら「えらいことになった!」という状況だけど、でも、「もう仕事はやめるんだ」「もう使うことのない版なんだ」と思ったら、気持ちが萎えてしまってね……。だから今は、きちんと入っていない。



12月に廃業届けを出されて、最後の納品を済まされたと聞きましたが。

ああ。うちのお客さんを、他の印刷やさんに紹介したり……、それも無事に済んだよ。

おいくつのときからこの仕事を続けているんですか?

高校卒業前から、手伝わされていた。家業だからね。
本当は、マンガ家になりたかったんだ(笑)。
今、73歳だから、もう60年近く、この仕事をしていることになるね。
まあ、いろいろ大変なこともあった。

版を組んだあと、紙を入れて何度も何度もためし刷りをする。半日仕事のときもあるよ。
きれいに出るように、紙を貼ったり板を入れたりして印刷具合を微調整するんだ。

こうして手差しのときもある。
5,000千枚も刷っていると、最後の方が太くなってくる。活版印刷の領収書で、これだけ線が揃っているのはすごいと言われるときもある(笑)。



手差しの、紙さばきが素晴らしいですね。手差しということは、5,000枚なら5,000回この作業を繰り返すわけですよね。すごい……。

紙を送る作業は、この竹と糸がポイントなんだ。しなりがいいんだ。軽いしね。



ガッシャン、ガッシャンという音が「活版印刷!」という感じです(笑)。匂いも、インクの匂いが充満していますね。

そうかい。私らは、もう慣れちゃっているからね。

今、作業されているのは?

いやあ、姪っ子に頼まれてね。
昔使った「絵」の木版を見つけてきてね、これで便箋を作りたいと。「絵」と「線」を組み合わせて、版を作り……、このガイコツなんざあ、ためし刷りに2時間もかかったよ(笑)。
姪っ子の文句が多くて、種類は多いのに注文は少なくて、支払いはどうなることやら(笑)。



この先、お店をたたまれたあとは、どうされるんですか?

どうするかね(笑)。好きな写真を撮りながら、好きな音楽を聞いて。うん、ぼちぼち考えるかね(笑)。

今日は本当にありがとうございました。


[取材を終えて]
印刷技術がデジタル化され、一文字一文字版を組んでいくことも、すき間を埋めていくこともなくなった印刷物。手間をかけずとも、複雑なものだってきれいに効率よくできるようになった。文明を、技術の進歩を否定する気はない。
しかし、領収書を見て、たかが線を引くのも職人技だと感じた。線の一本一本まで、人の手が関わっていると知るだけで、印刷物には不思議な味わい、温かさが感じられた。
そんなこと、思い過ごしかもしれないし、気分の問題かもしれない。でも私は、ここで、実際に人の手が加わることの現場を見た。

手で書き写すことから、木版刷り、活版印刷、そしてデジタル化へ。
文明は、科学は、どんどん進歩していく。
活版印刷が普及したときも、「味わいがなくなった」という話題はきっと出ただろう。
そうしたぬくもりは、人の手が加わることが減ることで、どんどん減っていく。
人は結局、効率を追い求める。人の手が加わることで「味わい」や「温かさ」が感じられようとも、結局、人は効率を優先する。発見した技術を、使わないではいられないのだ。
今のデジタル化も、技術を、効率を追い求める途中に過ぎない。



人の手が加わる余地が減り、またひとつ、まちから音と匂いが消えていく。
4月、高塚印刷所からすべての活版と印刷機が取り除かれた。

[取材レポート:いいじゃん掛川編集局/河住雅子]


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Re: 活版印刷という仕事
【返信元】 活版印刷という仕事
2010年05月15日 14:17
私の家も祖父の代から 印刷は高塚さんにお世話になっていましたので 
廃業されたとお聞きして 驚きました。
長い間 お疲れ様でした。 
活版印刷も 日本伝統技術の一つとして忘れないようにしたいものですね。
Re: 活版印刷という仕事
【返信元】 活版印刷という仕事
2010年05月14日 13:31
懐かしさと哀しさが入り混じった気持ちです。
こういったものをまちの小さな博物館として残していきたいですね。