平成22年3月19日、快晴。
掛川市立原泉小学校において第43回卒業証書授与式が行われた。原泉小学校、最後の卒業式である。



式の直前、司会の先生が「いい天気になりました。最高の式になるようにしましょう」と在校生に呼びかけた。
式が始まり「全員起立」の声。在校生は1年生3人、2年生3人、3年生2人、4年生2人、5年生5人の合計15名。卒業生の杉山奈々さんが入場する。たった一人の卒業生だ。

平成16年、奈々さんは原泉小学校に入学した。新入生は一人。以来6年間、同級生はなく、一つ下の5年生は5人全員が男の子。
教頭の大石先生は、学事報告の中で「奈々さんは下級生に信頼され、責任あるリーダーとして活躍してくれた。本校で学んだことをもとにはばたいてください」と述べた。

卒業証書授与。
奈々さんの卒業証書は第569号。次の番号はない。
卒業証書を受け取った奈々さんが振り返り、大きくはっきりとした声で言った。
「私の夢は、介助犬トレーナーになることです。夢とともに多くの人を助けます」



厳粛な、静粛な空気の中、報道機関のカメラの音だけが響く。報道陣の人数は全校生徒と同じ16名。カメラのフラッシュが奈々さんを包む。



校長の安松先生の式辞では、奈々さんへのたくさんのはなむけの言葉。
「奈々さんはたった一人の六年生でした。不安を表に出さず、原泉小のリーダーにふさわしい最上級生でした。下級生のあこがれの存在でした」
「奈々さんには素晴らしいところがたくさんあります。責任感、優しさ、粘り強さです」
「責任感は、朝の旗揚げや鍵開けの仕事など、その日の行事や天気を考慮して、自分で考えて自分の責任で仕事をしていました」
「優しさは、いつも下級生のことを気に掛けていました。朝、下級生の部屋を通るとき、戸を開けて『おはよう』と声をかけていました」
「粘り強さは、ソフトボール投げの大会に向け何度も何度も練習していたことです。練習場所のサークルは、奈々さんの深い足跡が刻まれていました」
「奈々さんと、在校生と、原泉小最後の一年を過ごすことができてとても嬉しく思っています」
「4月から、『交流』で知り合った西郷小の子どもたちと同じ中学校になります。同じ学年の友だちを、いっぱい作ってください」



体育館の中は「卒業おめでとう」の飾り付けで彩られている。式辞も、祝辞も、祝電も、最初に必ず「奈々さんへ」と呼びかけされる。「奈々さん、原泉小の桜のようにゆかしい笑顔でね」「奈々さん、原泉小で学んだことのすべてが夢の種だよ」
形だけではない、心からのお祝い。「心をこめて 夢をこめて」の原泉小学校の今年の重点目標のように、たくさんの、さまざまな想いの込められた卒業式だ。子どもたちも先生も、保護者の方も来賓の方も地域の皆さんも、この体育館の中で一つになっているような、そんな卒業式だった。



奈々さんの卒業の言葉。



1年生、教室には私一人で胸がどきどきしました。字を丁寧に書く大切さを学びました。

2年生、初めての複式学級。1年生5人が入ってきて、お姉さんとしてがんばろうと思いました。

3年生、キラリふれあいコンサートで大勢の人の前で演奏しました。心臓が飛び出そうに緊張しました。

4年生、遠足で御前崎海岸に行きました。海の生き物をたくさん見ました。そのとき私は、原泉の自然が大好きだなと感じました。

5年生、なわとびのいろいろな技をがんばりました。

6年生、最後で最高の1年にするために、リーダーとして責任を感じながら、夢をこめて心をこめて、どんな活動も取り組んできました。

堂々と、立派な、卒業の言葉だった。
そして、卒業生退場。奈々さんが在校生の前を通り過ぎる。胸を張り、まっすぐ前を見つめて。
校長先生が涙をぬぐった。



第43回原泉小学校卒業証書授与式、閉式。

校長先生が式辞の最初に言った「今年も原泉小学校自慢の桜がつぼみをつけています」の言葉どおり、もうすぐ満開の桜が咲く。




※平成22年4月1日、原泉小学校は西郷小学校と統合される。

奈々さん、ご卒業おめでとうございます。
奈々さんの入学とともに原泉小に勤務し、２年前まで勤めていたので、原泉小最後の卒業式のことを考えていました。河住さんのレポートを読んで、奈々さんの卒業式に出席できた気持ちになれました。ありがとうございました。

奈々さんが３年生、４年生の時、一緒に「キラリ！ふれあいコンサート」に参加しました。上級生を支え、下級生を優しくリードする奈々さんの頑張る姿は、練習の時から輝いていました。奈々さんなら、中学校でも友達を増やし、目標を持って自分を高めていけると思います。

奈々さんの卒業式の２日後、原泉小学校で閉校式が行われました。元職員としては、原泉小がなくなってしまうことは、寂しい気持ちでいっぱいです。一方で、４月から原泉小の１５名の子ども達を心をこめて温かく迎える準備ができることを嬉しく思います。原泉小で築いてきたこと、子ども達に育ててきたことを大切に、４月１日、新生西郷小学校としてスタートできることを楽しみにしています。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　西郷小学校　　平栁

河住さんのレポートすごく感動しました。私は原泉小学校の卒業生です。もう２４年前です。１２人のクラスメートで本当に仲の良い友人達でした。奈々さんは一人だけの卒業式でしたが、みなさんにお祝いしてもらえて幸せであったと思います。おめでとうございます。今は主人の赴任に同行して、オーストラリアに住んでいます。すでに１４年が経ちます。
先日の閉校式には私の妹、そして私のクラスメートも参列しました。とてもすばらしい式であったと聞いています。参列できず残念でした。２年に一度の帰国には実家に戻り、小学校にも子供達を連れて行き遊びました。添付された写真を見て、変わっている所もありましたが、やはり懐かしく感じました。母校がなくなってしまうのはとても寂しく感じます。でも共に学び、遊んだ友人達、そしてお世話になった先生方との思い出は一生忘れる事はないでしょう。小学校の校歌だけは未だに覚えています。今後、母校が地元の為に有効的に利用される事を願います。いつ日本に帰国できるかわかりませんが、私も卒業生の１人として何かお役に立てる事ができたらと思います。もうじき満開の桜が見られるでしょうね！

珠玉の一編ですね。じわっときました。

鬼雅さん　ありがとう。。。泣けました。（｡＞＿＜｡）

奈々さんおめでとう。
河住さんのレポートを読んで、
涙が出てきました。

今日の午後、地元の中学校の卒業式に、
来賓として出席し、
涙を流し、
また、泣けてきました。

単に年取ったからだけかもしれませんが、
うるうるの一日です。