第4回NPOプレゼント講座は、パネルディスカッション「地域課題解決のロールモデルを考える」です。
講師の皆さんの印象的な言葉をレポートします!
【1】ミニレクチャー「市民活動による地域課題の解決に向けて」 ●講師/静岡大学人文社会科学部教授 日詰一幸 氏
■日本は地方分権の時代に・1993年6月の「地方分権の推進に関する決議」から、日本は地方分権の方向に進んだ。
・2000年4月の「地方分権一括法」施行により、国から地方へ権限移譲が進展し、地方の裁量の幅が広がった。静岡県は市町への権限移譲に積極的な県だった。
■地方自治体をめぐる環境の変化・2000年以降、国・都道府県・市町の関係は、上下・主従関係から「対等」「協力」の関係に。
・市の裁量や自由度が増し、自らの判断と責任により、市民の意思に基づいた自治体運営が可能となった。
・「新しい公共」という枠組みが提示され、自助、共助、公助を通じた主体間の役割の認識がされ、地域生活者が担う領域が広がった。
■地域社会が抱える課題・地域社会を複雑な課題が堆積し、行政だけでは解決できなくなっている。
・政府の財政危機の深刻化により、従来の行政サービスの内容や提供方法の見直しが不可欠。
・人々のニーズの多様化により、「行政主導型社会」」から「地域生活者の創意と主体性が発揮できる社会システム」への転換が期待されている。
・明るい兆しとして、市民活動の活発化により、市民が地域課題解決に乗り出すケースが増えてきた。
■地方分権時代の地域課題解決方法・「古い公共」と言われる官が主導して解決する方法から、官民連携による地域課題解決へ。協働関係構築の時代となった。
■市民活動が主体となった地域解題解決・まちのにぎわいを取り戻すため、自分の店だけでなく、地域全体で元気を取り戻した松崎町の事例を紹介。
築150年の蔵造の民家を改築した「蔵ら(くらら)」は、高齢者だけでやっている食事と地域の地場産品が買える店。3年前にスタートし、現在は「高齢者の居場所づくり」の事例として全国的に有名。
地場産の新鮮食材を使ったワンコインランチの提供や、手作り品の販売のほか、多彩な作家展や各種体験などを展開。町内のワンコインメニューを集めたマップを制作するなど、地域を巻き込んだ活性化の取り組みを積極的に進めている。
・クリエイティブサポート・レッツ(浜松市)は、障害者支援とアートの結びつきと、寛容性のある地域づくりを展開。(公財)アサヒグループ芸術文化財団の支援を受けているが、アートを活用した市民活動を支援する企業も増えている。助成金などを活用するのも大事。
■地域の主体が相互につながることの必要性・近年、フェイスブック、ツイッター、ラインなど、SNSの急速に発達し、双方向のコミュニケーションが可能となった。
・地域の様々な主体が情報媒体を通じてつながることが大事。行政が情報媒体を活用して、市民活動と連携することも可能になった。
・市民活動、行政、議会議員が地域課題解決をめぐり、一堂に介する円卓会議等も有効。
・ネット上のSNSを使いながら、面と面で会って信頼関係を築くことも、同時に大切。
■むすび・様々な立場の人(市民、自治会、市民活動団体、各種団体、専門職、企業等)が、地域課題の解決に関わる仕組みを築き上げていくことが大事なので、その仕組みの構築を目指すべき。
・そのためには、このNPOプレゼント講座のように、中東遠(磐田、袋井、掛川、菊川、御前崎、森)での事例のパワーアップが不可欠。。
・地域の課題解決を自分のこととして受け止め、「参加することで実現しよう」という心意気を持つ市民の啓蒙や啓発が必要。それが、住みやすい地域社会の創出につながる。
【2】パネルディスカッション「地域課題解決のロールモデルを考える」●コーディネーター
静岡大学人文社会科学部教授 日詰一幸 氏
●パネラー
・NPO法人みらいアース副理事長 長島康男 氏
・倉真まちづくり委員会「パンダひろば」所長 戸塚修子 氏
・東遠学園組合 東遠学園 園長 大石明利 氏
①それそれの活動紹介長島■NPO法人みらいアース
NPO法人みらいアースは、山が荒れ、河川の状況が悪化している中で、自然・生き物と共存する永続可能な農と食を目指すNPOとして、平成成24年11月に設立しました。今は「生産者」と「消費者」という相反するものをつなげ、農業の本質を追及していくような活動に力を入れています。それは、生き物が多様な場は、「食」をつくる農業的にもいいからです。
今、問題なのは茶園の荒廃なので、オリーブ畑に再利用する活動をしていますが、地域の人たちに関わってもらえる形を模索しています。
戸塚■倉真まちづくり委員会「パンダひろば」
倉真地区は、新幹線掛川駅から7キロ、15分で着ける場所にあるにも関わらず、過疎化が進んでいます。パンダひろば''は、平成15年に倉真幼稚園が廃園となったのをきっかけに、平成17年子育て支援事業所として生まれ変わりました。10年前はまだ子育て支援事業所が少なく、「こういう場所がほしかった」という声をたくさんいただきました。週3日だった開所日も、現在は週5日となり、一日20~30組の親子が利用しています。
少子化や核家族化が進む中で、子育て事業所の必要性を強く感じます。時代時代で様々な問題がありますが、一昔前は「どう育てていいかわからない」お母さんが多かったのが、今は高学歴化で何でも知っているお母さんが増え、逆に「子どもらしい生活をさせてあげられない」という問題が出ています。田園風景や川や山が美しいこの倉真地区で、子どもらしい遊びを経験させてあげたいし、「私たちも一緒に子どもを育てるよ」と伝えたいと思っています。
同時に、お母さんたちは様々な特技を持っています。パンフレットのイラストを頼んだり、講座の講師をやってもらったり、利用している人の資源も引き出せるような活動をしていきたいです。
大石■東遠学園組合 東遠学園
東遠学園は、東遠地域3市1町(森町、掛川市、菊川市、御前崎市)地域の発達支援や障がい福祉を必要とする人たちに対して、ライフステージに応じた支援を行っています。
【乳幼児期】こども発達センターめばえ、こども発達センターみなみめばえ
【学齢期】東遠学園児童部
【成人期】東遠学園青年部、島川ホーム
少子化にも関わらず、特別支援学校に通う子どもは年々増えている状況で、こども発達センターへの通園者も、定員を超えています。また、東遠学園児童部には、ネグレストやDVなど社会的養護が必要な子どもたちが増えています。
文部科学省の調査によれば、今、日本全体で「比較的障がいが重い子が2.7%」「知的障がいのない発達障がいの子が6.5%」で、合わせると9%の子が、地域の中にいます。
今、社会の中で、
・ひきこもりの3割に発達障がい
・虐待の5割弱に発達障がい
・刑務所人口の3割が経度知的障がい
・ホームレスの3割が経度知的障がい
ということがわかっている。特に50~60代の人たちは、小中学校と学校に通わず、学習支援を受けていない時代に育っていて、そうした社会的背景もあります。
差別や偏見は「知らない」ことから起こります。障がいのある人とない人が、どれだけの「時」と「場所」を共有し、当たり前に理解していくことが大事であり、これからの課題でもあります
どの地域にも居場所や支援の必要な人たち(「障がい者」「障がい児」プラス、「高齢者」「乳幼児」「不登校・ひきこもり」など)がいます。
現在、高齢者・障がい者・障がい児を同一施設で福祉サービスを行う富山発祥の「富山型デイサービス」に注目が集まっていますが、「高齢者」や「乳幼児」、そして「プラスα」の「不登校・ひきこもり」の人たちが一緒にいられる施設ができたらいいなと考えています。
地域で支え合い、地域で見守り、地域で解決していける「共生社会」が実現できたら嬉しいですね。
②地域とのつながり、連携長島農業の場合、新規就農がなかなか難しいのですが、補助金など行政支援によって以前よりも参入しやすくなっているのは事実です。ただし、行政は「経営という視点」でのアドバイスはしてくれないので、「農業で飯(めし)が食えている」人の経験談が聞けるような機会も作っていきたいと思っています。
あと、オリーブの活動をしていく中で、若い人が興味を持ってくれたことに驚きました。これからは、若い人も関わりやすい「キーワード」や「場の提供の仕方」も考えていきたいですね。
戸塚地域の食推協の女性たちや、経験豊富なおばあちゃんたちを講師に招いて、地域密着の様々な講座を実施しています。
あと、掛川市内の子育て支援センター同士で連携し、情報交換や学びの機会を作っています。
ハード的な支援は行政と連携していますが、今後、資金面やハード面、本質的なソフト運営について、地域や民間や企業と連携する必要性を感じています。
企業の子育て支援と倉真パンダひろばの活動が連携できたらいいですね。そんな中から協賛してくれる企業が現れたら嬉しいです。
③行政への政策提言大石知的障がい害を持つ子どもについては、「特別支援学校から地域の作業場へ」という流れができていますが、発達障がいを持つ子どもたちの支援については、まだまだ仕組みが整っていません。
また、ひきこもりの子どもは、小中学校と学校に通っている時期は学校や教育委員会のバックアップがあるのですが、卒業と同時にサポート体制がなくなります。中学校卒業後のサポート体制の構築が必要だと感じています。
あと、児童虐待の問題は行政だと後手後手に回ってしまうのが現状です。情報を持っている関係機関の情報共有が不可欠で、そのためのネットワークづくりと連携の仕組みの構築も必要です。
戸塚今、国はしきりに「待機児童の問題」を言いますが、でも「仕事をすために預ける」というスタンスの前に、もっと根本となる「子どもを大事に育てる」ことを大事にしてもいいのではないか思います。お母さんと赤ちゃんが向き合う時間を大事にできるような、そんな仕組みがほしいと思います。
長島今、お二方のお話を聞いていると、「土にふれる」ことは小さな子どもも障がいを持つ子にも必要です。農業と連携できたらいいですね。
④まとめ日詰大石さんのお話の中で、「グループホームを作ることは賛成だけど、自分の家の近くでは困る」という地域の人の言葉が紹介されましたが、地域地域課題の解決には、まず現場の人の理解が大事だと改めて感じました。地域の人を巻き込む仕組みを作り、活動に共感してもらうための発信も大事です。
長島さんからは、オリーブの活動によって、これまで活動に興味を示さなかった若い層の人たちが関わってくれるようになったというお話がありました。様々な立場の人を巻き込む新たな仕組みや、惹きつけるキーワードが大事だと感じました。組織と組織をつなぐ役割も果たしています。
今、学生にNPOボランティア論を教えているのですが、授業の中でゲストスピーカーを招き、それぞれの活動を紹介してもらっています。すると、その活動に参加する学生が意外といるんです。きっかけを与えることで、関わってくれるということです。
今回のNPOプレゼント講座でも、「環境」「福祉」「子育て」と、あえて領域の違う人たちがつながる場を設定していただきました。様々な立場の人と関わることで、知恵や新しい発想が生まれ、ネットワークも生まれます。
専門的な人をどんどん巻き込むことも必要です。資金面で支える関わりでもOKです。いろいろな形で関われる仕組みを作ることが重要なのです。