<富は富岡 北甘楽(かんら) いやいや 日本の名の誉れ 富んだ 富んだ みな富んだ 世界の富を引き寄せた>。群馬の富岡製糸場を歌った「北甘楽行進曲」の六番。威勢がいい
▼二十六日、「製糸場と絹産業遺産群」の世界文化遺産への登録が確実になった。登録を目指してきた富岡市の関係者には、歌でいえば「世界遺産を引き寄せた」であろう
▼作詞は北原白秋、作曲は弘田龍太郎。製糸場五十年の記念につくったというから一九二二(大正十一)年か。地名とはいえ、短い歌の中に「富」の文字が六つ。富国強兵の「富」、外貨の「富」。日本の近代化という、この工場が背負った期待と役割が分かる。それに応え、品質の高い糸を生産した主役は工女。女性たちである
▼彼女たちも当初は二の足を踏んだ。初代所長の尾高惇忠(おだかあつただ)の伝記『藍香翁』によると西洋人への恐怖心があった。血を吸われる。目撃者もいた。「如何(いか)なる物をか見たる?」「血酒」「そは日用の葡萄(ぶどう)酒なりき」
▼今聞けば、出来の悪い怪談だが、当時は真剣だった。そこで働き、近代化の礎を築いた「工女」を思う時、この工場が女性のこさえた世界遺産に見えてくる
▼白秋には、この工場にちなむ別の歌もある。二九(昭和四)年の「繰絲(くりいと)の歌」。<よりによりかけ からんだ絲よ おまへ切れてもわしや切れぬ>。婀娜(あだ)な文句に工女の人間味があふれる。
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4月27日の中日新聞のコラムのコピーです。(削除してください)
写真のどこかに隣のとろろさん出演しているのですね。