物の始まりが一ならば、国の始まりは大和の国、 島の始まりが淡路島・・・・・ 『男はつらいよ』各作から おなじみ寅さんの啖呵売の名せりふです。商売の口開けに「物の始まりが一ならば」とスタートを宣言するわけです。寅さんは16歳で家出をして、旅の暮らしの中で、生きていくためにテキ屋となりました。 第16作『葛飾立志篇』で、寅さんは向学心に燃えて、東大考古学教室助手の才媛・筧礼子(樫山文枝)から、日本史を学ぶことになりました。専門用語はチンプンカンプンだった寅さんですが、「大和朝廷」という言葉に反応して「国の始まりは大和の国」と得意の口上を、礼子に披露します。 観るたびに思い出すのは、東大寺正倉院に保管されていた「下総国葛飾郡大嶋郷戸籍」という西暦721(養老5)年、現存する古代の戸籍簿のことです。 大嶋郷は、甲和里(かわわり)、仲村里、嶋俣里に分かれていました。甲和里は現在の小岩のことだそうで、仲村里は水元公園のあたり嶋俣里とは葛飾柴又。「シママタ」が押韻変化で「シバマタ」になったそうです。しかし、奈良時代の戸籍簿が寅さんの故郷だということがまず驚きです。 しかも、その戸籍の中に、姓は「孔玉部」(あなほべ)、名は「刀良」(とら)という人がいるのです。さらに驚くべき事に、女性の「佐久良賣」(さくらめ)という名前まで記載されていたのです。正倉院で発見された戸籍簿が柴又のもので、トラとサクラの名があると聞いたときは、本当に驚きました。 2013年4月、帝釈天題経寺での「柴又トーク・ミュージアム」で、葛飾区郷土と天文の博物館の学芸員・矢口榮さんと対談をしました。 そのときの矢口さんの話では、アナホベさん宅の戸籍を見ると、戸主の刀良は31歳。その1歳下の弟に小刀良(ことら)という人がいるそうです。 ゆえあって、弟の小刀良さんが村長になったそうですが、この時代の表現で「小」とは次男、ぼくからすれば、すなわち寅次郎なのです。 昭和の寅さんは家出をしましたが、奈良時代の刀良さんは村長になったという。お話です。柴又のトラとサクラの始まりは奈良時代にあったのです。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |