惜しまれて、引き止められるうちが花ってことよ。 第2作「続男はつらいよ」から 第2作『続男はつらいよ』は葛飾商業時代の恩師・坪内散歩先生(東野英治郎)と寅さんの心の交流が描かれています。 学校時代、手の付けられない不良だった寅さんと、生徒の人間性と人との関わりを大切にしてきた散歩先生との再会は、映画で描かれていない少年時代の寅さんの姿を、ばくたちにイメージさせてくれます。 一年ぶりに柴又に帰ってきた寅さんが、幸せそうに暮らしているさくらたちに安心して、すぐに旅に出ようとします。その理由が、お茶の一杯が、いつしか酒になり、そのうち腰が立たなくなって、「泊まっていくか」ということになり、結局長逗留してしまうから、とはいささか考えすぎですが。 さくらはせっかく帰ってきたのに「どうして遠慮するの?」と聞きますが、寅さんにしてみれば、「望郷の念」を断ち切り、旅立つのが渡世人のカッコ良さでもあります。そのときの、さくらに言うせりふが、このことばです。 こうして寅さんは、柴又を後にしようとするのですが、その前に東金町の葛西神社の近くにある恩師・坪内散歩先生のお宅にあいさつに立ち寄ります。そこでの美しい夏子(佐藤オリエ)との再会で、旅の予定は大幅変更。お茶の一杯が案の定、酒となります。 酔った散歩先生は、杜甫の漢詩「贈衛八処士」(えいはちしょしにおくる)の一節を引用し「人間というのは再会するのは、はなはだ難しいということだ」と、寅さんとの再会を心から喜びます。酒を酌み交わす二人の姿に、散歩先生と寅さんの師弟愛を感じます。 物語の中盤、寅さんは京都を旅していた夏子とバッタリ会い、散歩先生から「なんで正業につかんのだ」と説教されます。相変わらずのテキ屋暮らしの寅さんに、額に汗して労働することの尊さを、こんこんと説く散歩先生は、まるで我が子のように寅さんのことを心配しています。寅さんのために本気で喜び、本気で怒る散歩先生の素晴らしさ。まさしく理想の師です。 「惜しまれて、引き止められるうちが花ってことよ」と言いながら、いつも柴又に帰ってきてしまう寅さん。その「望郷の念」には、最愛の妹・さくらの存在だけでなく、恩師・坪内散歩先生と過ごした日々への思い出があるからなのだと思います × × 誤字脱字写し間違いあります。 |