人の運命なんていうものは誰にもわからない、 そこに人生の悩みがあります。 第2作『続男はつらいよ』から 「天に軌道のあるごとく、人それぞれに運命というものを持って生まれ合わせております」。これは第2作『続男はつらいよ』で、京都は嵐山、渡月橋のほとりで易断本を売る、寅さんの口上です。 この京都で寅さんは恩師・坪内散歩先生(東野英治郎)と一人娘・夏子(佐藤オリエ)と再会。寅さんは散歩先生に、生みの母が京都にいること、会うべきかどうか迷っていることを相談します。寅さんはかつて柴又にいた芸者・お菊と、父親の間に産まれた婚外子でした。自分を捨てた母を恨みながらも、いつかは会いたいと思っていたのです。 話を聞いた散歩先生は「『老病死別』と言ってな、人間には四つの悲しみがある。その中で最も悲しいのは死だぞ。おまえのおふくろもいつかは死ぬ」と言い、「その時になったら遅いんだぞ」と、激しい口調で「会いに行け」と促します。 結局、寅さんは夏子に付き添われて、花見小路のほど近く安井毘沙門町で、ラブホテルを経営している実母に会いに行きます。ところが目の前に現れたのは、イメージとは裏腹の女性で、寅さんの顔を見て「親子でも銭は関係あらへん」と厳しい顔をします。「てめえが俺を捨てたんじゃないか」「どこぞの世界にな、自分の子供を喜んで放る親がどこにあるんじゃ」。売り言葉に買い言葉、激しいけんかをしてしまいます。 母・お菊を演じたのは、大阪を代表する喜劇人のミヤコ蝶々さん。そのイメージから関西の出身かと思いがちですが、東京は小伝馬町生まれの江戸っ子です。歯切れの良いタンカは、この母にしてこの子あり、という感じがします。 この二人は断絶したままと思いきや、ラストでは仲良く京都の街を歩く姿が描かれ、第7作『奮闘篇』ではお菊さんが、久しぶりに柴又を訪ねるエピソードが描かれます。 第44作『寅次郎の告白』では、母親の再婚問題に悩む泉(後藤久美子)に、自分の出生のこと、お菊を「一生恨んでやろうと思った」ことを告白します。でも「あんなババアでも、一人の女性として見てやんなきゃいけねぇんだな」と優しさを見せます。 その複雑な思いは、寅さんの易断でも分からない人生の不思議であります。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |