酒のにおいが腹の真にじぃっと染み通ったころ、おもむろに一口飲む。 さぁ、お酒が入っていきますよ、ということを 五臓六腑に知らせてやるんだ。 第42作『男はつらいよ ぼくの伯父さん』から 1969年に始まった「男はつらいよ」シリーズは、昭和40年代末から60年代にかけて、多くの観客を魅了し、国民的映画シリーズと呼ばれるようになってきました。お盆とお正月、年2回、公開される新作は、日本人の歳時記のようなものとなりました。 このシリーズと寅さんは「変わらない」ことを身上に続いてきました。まだシリーズが続いているころ、山田洋次監督に取材したときに「寅さんは3年に1歳ぐらい、ゆるやかに歳をとっているのかもしれない」という話になりました。 「変わらない」シリーズの中で「変わってきた」ことといえば、さくらと博の息子、寅さんのおいの満男です。第1作のラストで生まれた満男は、シリーズの中で、幼稚園に上がり、小学校に通い、中学生、高校生と、一作ごとに成長してきました。 第1作では柴又の近所の赤ちゃん、第2作『続 男はつらいよ』かたは中村はやとくん、第39作『柴又慕情』のみ沖田康浩くんが、満男を演じてきました。 第27作『浪花の恋の寅次郎』から、吉岡秀隆くんが演じることとなります。子役の吉岡くんが長い時間を経て、立派な俳優として成長していく過程を味わうことができるのもこのシリーズの素晴らしさです。 満男は「ぼくのダメおじさん」などと言いながらも、父・博には理解してもらえない気持ちや素朴な疑問を、寅さんに話してきました。「人間は何のために生きているのか?」「何のために勉強するのか?」そのたび、寅さんは、分かりやすいことばで答えてきました。 その満男が浪人生になり、恋をして悩める青年となった第42作『ぼくの伯父さん』で、浅草のどぜう屋で初めて差し向かいで酒を酌み交わしたときのことばです。酒の飲み方を満男に指南する寅さん。 一人前になるための通過儀礼でもありますが、「変わらない」寅さんが「変わってゆく」満男に精いっぱいの応援をする。ここからのシリーズは、満男のドラマを中心とした、平成の若者たちに向けた「青春映画」ともなってゆくのです。 × × ぎ誤字脱字写し間違いあります。 |