「楝(おうち)散る 川辺(かわべ)の宿の
門(かど)遠く 水鶏(くいな)声して
夕月すずしき 夏は来ぬ」
ご存知夏は来ぬの4番目の歌詞です。初夏の風情を叙叙とうたった歌詞が大好きです。最近はYouTubeにアップされている新妻聖子のすんだ歌声のファンになり仕事の合間に聞いています。
さて、この門の遠くに鳴くクイナが先週のはじめ頃から、自宅の裏の休耕田に渡って来て毎夜澄んだ声を聞かせてくれています。
インターネットなどの一部には、この歌の水鶏をクイナ科の「クイナ」だと紹介しているものもありますが、クイナは北海道から東北で繁殖する鳥で声も「クイクイ」などと遠く響き渡るような声ではありません。この歌の水鶏は同じクイナ科の「ヒクイナ」を指しこちらは日本全国に夏に渡って来て「キョッキョッ」と高く澄んだ声を響かせます。興が乗ると声が連続的になり、昔は新嫁が寝床で夢うつつに舅が台所でウリモミを刻んでいる音と勘違いして飛び起きると言うことから「嫁起こし」ともいわれていました。このヒクイナは40年ほど前まではどこにもいたのですがその後数が減って静岡県のレッドデータブックでは、絶滅危惧種に指定されています。ところが最近は少しずつ数が回復しているようで、昨年からはあちこちで繁殖の記録が確認されるようになりました。それではこの鳥の生息環境が良くなったかというと決してそうではなく、水田の耕作放棄が増えて来て、アシやガマが生えてきたのでそこに住みつくようになったためだと見られています。
冒頭の夏はきぬの5番目の
五月(さつき)やみ、蛍飛びかい
水鶏(くいな)鳴き、卯の花咲きて
早苗(さなえ)植えわたす、夏は来ぬ
早苗植え渡す場所が減って来てクイナが復活して来ているとするとさみしい気がします。