ちょいとだけ、いい男ぶらしてくれよ。 第45作『男はつらいよ 寅次郎の青春』から 全48本作られた「男はつらいよ」シリーズのなかで、最もカッコいい寅さんの登場シーンといえば、第45作『寅次郎の青春』だと思います。 宮崎県は油津(あぶらづ)港にほど近い、堀川運河にかかる小さな橋のたもとにある理容店の女主人・蝶子(風吹ジュン)が、行きつけの食堂でお昼休みを過ごします。カウンターに座り、ママにこんなことを言います。 「あーあ、どっかにええ男でもおらんじゃろか? 沖縄でん、北海道でん、ついていくっちゃけんど。そんな男がおったら」。気だるい午後のひととき、美しい蝶子がふと漏らした本音。 そのとき、窓際の席に座った男の声がします。「お姐(ねえ)さん、その男、この俺じゃダメかな」。その声の主は、誰あろう、われらが車寅次郎その人です。カッコいいことを言った寅さん「ちょいとだけ、いい男ぶらせてくれよ」と蝶子にコーヒーを奢(おご)ります。そこまでは良かったのですが、財布の中身は例によって空っぽ。結局、蝶子の家に厄介になるという、いつもの展開となります。 第42作『ぼくの伯父さん』から、おいの満男の青春物語にシフトしてきた「男はつらいよ」でしたが、ここでは久々に寅さんが現役復帰。大人の恋の物語が展開されます。 蝶子は、小さな港町で理容店を営みながら、漁師の弟・竜介(永瀬正敏)と暮らしています。でも、燃えるような恋をして、その相手と一緒に町を出ていっても構わない、というパッションも持っています。 蝶子は、変わらぬ日常に「自分はこのままで良いのだろうか」と疑問に思っています。風吹さんはそうした、大人の女性の微妙な心理をさりげない表情で観客に感じさせてくれます。 彼女が寅さんの顔をカミソリであたり、シャンプーをする場面があります。モーツァルトのクラリネット五重奏曲「第二楽章 ラルゲット」が流れ、ゆったりとした時間が流れます。丁寧なショットを積み重ねたこのシーンは、「男はつらいよ」なのに、フランス映画を思わせる、エロチックな雰囲気に、ドキリとさせられます。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |