第二章 気づかせること 緊張感を与える名手、星野監督 アテネ五輪後、長嶋監督は体調を回復させて「今度こそ金メダルを」とメッセージを発せられていた。しかし、体調が完全に戻られるまでには時間が必要なようだった。 メジャーリーグの選手も参加する初めての世界大会となったワールド・ベースボール・クラシック(WBC)には、王監督が就任し、見事世界一の栄冠を手中に収めた。当然、次の北京五輪も王監督にとの声は根強かったが、「球界もいつまでも自分やミスターばかりというのはどうだろう」と、自身は代表監督をその大会限りで退くことを明言した。 そして阪神のオーナー付シニアディレクターの星野仙一さん(現・楽天監督)に白羽の矢が立った。 07年12月のアジア予選が控えるなか行われた代表合宿で、私は監督室に呼ばれた。 監督室には田淵幸一打撃コーチや山本浩二守備コーチもいた。星野監督は開口一番、「気づいたことがあったら何でも言ってほしい。俺らには五輪の経験はないけど、お前にはあるんだから」と言われた。私が何も言えないでいると、「わしら、こう見えても聞く耳はあるんやぞ」と星野監督は笑った。 合宿の別の日には、シートノックで外野手の返球が乱れたことがあった。翌日、監督に呼ばれ、「昨日は外野手の返球が悪かったろ。これからチームをシメていかないかんから、ちゃんとやらせろ」と注意を受けた。私が星野監督の言葉を選手に伝えると、かえって固くなったのか、送球が思うようにいかなかった。 しかし、練習に緊張感がみなぎり真剣に取り組んでいる感はうかがえた。「星野監督はすごい」と思わざるを得なかった。自分が直接選手に言葉を伝えるのではなく、私を媒介して選手に伝えるだけで、これほどの緊張感を与える。これはなかなかできることではない。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |