第四章 攻める意識 A~D型の使い分け ヤクルト入団時の野村監督は、バッターを四つのタイプに分け分析していた。簡単にまとめると、次の四つだ。 A型=理想型(天才型であれこれ考えないタイプ。狙い球も大まかで対応力に秀でる) B型=無難型(内角か外角か、大まかに狙いをつけて対応できる打者) C型=器用型(流すと見せて引っ張ったり、駆け引きを使えて方向を決めて対応する) D型=不器用型(コース、球種で狙い球を絞らないと対応できない打者) 四つのタイプから自分のタイプを決めたうえで、相手投手との力関係やカウント、走者の状況、得点差などによって応用していくことを求めていた。「このぐらいの投手ならいけるなと思ったらA型(理想型)でいくし「この投手はコースも球種も決めないと打てないな」と思ったら、D型(不器用型)で狙い球とコースを絞るしかない。状況によって使い分けるわけだ。 入団当初、私はC型(器用型)に徹していた。とにかく右に打たないと、野村監督に怒られた。左方向へ引っ張ってヒットを打っても、ベンチに帰ると「お前が引っ張っても金にならん。チームに迷惑がかかるから右に打て」とぼやかれたこともあった。 たまにホームランを打った直後は、特にベンチからの視線を意識していた。ホームランを打った後は、ホームランを打った感触が身体に残ってしまい、スイングが大振りになって崩れることが多い。私のようにたまにしかホームランを打てない打者は、余計に意識してしまうのか、もしかしたらもう一本打てるのではないかという思いが頭をよぎってしまうのだ。 野村監督はそういったバッター心理を見透かしていた。ホームランの後の打席で三振したり、引っ張った打球を打つと「お前、勘違いしてないか」と真っ先に怒鳴られた。だから、本塁打の後の打席では、とにかくセカンドゴロを打とうとしていた。セカンドゴロなら怒られないだろうという後ろ向きな理由である。 今思えば、教わる順番がよかったのだと思う。右打ちを徹底したことで、内側からバットを出すインサイドアウトのスイングが身についたのだから。その後、前述した中西さんから指導を受けたことで、自分のスイングをつくりあげることができた。 野球教室などで「打席の中で集中するためにはどうすればいいですか?」と聞かれることがあるが、集中しようと思ったことは一度もなかった。 打席に向かう時は状況によって「出塁しなければいけない」「走者を進めなければいけない」ということばかりを考えていたので、集中しようと意識したことはなかった。状況判断や配球を考えるのに必死で、そこまで頭を回している余裕がなかったのである。 ただ、現役を引退した今だから書けるが、試合の勝敗が決まった後の打席では気合が入らないことがあった。例えば、10対2とかの大差で勝っている場面では、「今日は勝てるな」という感じで打席に入ってしまっていた。 打撃タイトルを獲るような選手は、そこが徹底的に違っていた。ヤクルトで三度、首位打者になった青木宣親はどんなに点差の開いた試合でも、同じレベルの集中力で打席にむかっていた。ああいう選手が、タイトルを獲ることができる選手なのだろう。 ヤンキースで活躍した松井秀喜も巨人時代のある時、タイトルを獲る方法としてひとつ分かったことがあると言ったという。それが「一打席も無駄にしないこと」だった。 その翌年に初めてタイトルを獲ったのだが、タイトルを獲るためには常に同じ集中力を保たなければいけないのだろう。いかなる状況でも集中して打席に入るというのは、やはりプロとして頭が下がる。一打席も無駄にしない集中力というのは、私にはないものだった。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |