おう、ぼたん。いずれそのうち所帯を持とうな。 第17作『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』から 「男はつらいよ」シリーズにはさまざまなタイプの女性がマドンナとして登場します。いずれも日本の映画界、演劇界を代表する大女優ばかり。作品の数だけ、寅さんの恋があり、さまざまな女性の人生が描かれています。 彼女たちは、それぞれ悩みや問題を抱えていますが、寅さんと心通わすことで、一歩前進することができます。マドンナの幸福が、寅さんの恋愛成就につながれば、フアンとしてはこんなにうれしいことはないのですが、なかなかそうは行きません。 第17作『寅次郎夕焼け小焼け』は、当初『柴又の伊達男』という題名が予定されていました。この作品で、寅さんが播州龍野で出会った芸者・ぼたんは、寅さんにとってもフアンにとっても特別な存在です。演じたのは、大地喜和子さんです。 「年の頃だったら二十七、八。きれいな芸者。三つ指をついてちょっとしゃがれっ声でね」と、寅さんは家族にぼたんのことを説明します。 ぼたんは、早くに両親を亡くし、芸者をしながら、弟を大学に通わせて、妹には幸せな結婚をしてほしいと願っている苦労人です。粋な渡世人の寅さんといなせな芸者のぼたん。酸いも甘いもかみ分けた二人のやりとりは、見ていて気持ちが良いです。「いずれそのうち所帯を持とうな」は、龍野での別れ際に、寅さんがささやくことばです。 その後、ぼたんが柴又にやって来て「私と所帯持つって約束したやないの」と、明るく言います。二人にとって「所帯を持とう」は合言葉のようなものです。 ぼたんは、悪い男にだまし取られた二百万円を取り返しに上京しますが、相手がしたたか者でどうにもなりません。寅さんは「裁判所が向こうの肩を持つんだったら、俺が代わりにやっつけてやる」と相手の居場所も聞かずに出て行きます。それを聞いたぼたん「私、生まれてはじめてや、男の人のあんな気持ち知ったん」と感激します。 ぼくらは「所帯を持とうな」ということばが、単なる軽口ではないことに気づかされるのです。まさに寅さんはぼたんにとって「柴又の伊達男」だったのです。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |