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お昼ごはんを買いに、事務所から歩いて3分ほどのところにあるパンやさんに行った。店に入ると、一人のおじいさんが店員さんと話をしていた。 「おじさん、95歳なの!」 店員さんの声に、ついおじいさんの方をまじまじと見てしまった。 「背筋がシャンと伸びて、とっても95歳には見えませんねえ~」 ほんとにその通りで、腰は曲がっていないし、パンを置くトレイも自分で持って、その上には3つのパンが乗っていて、代金も自分で払って、にこにことや柔らかい笑顔を店員さんに向けていた。 毛糸の帽子をかぶり、暖かそうなベストを着て、黒いゴム長の中にズボンをきちんと入れていた。 おじいさんは店員さんに「ありがとね」と言うと、ガラスの戸を押して店を出て行った。 「今のおじいちゃん、95歳なんですか!?」 驚いて、私は店員さんに聞いた。 「ねえ、若い。ときどきパンを買いに来てくれるんだよ」 レジを済ませ店を出ると、30メートルほど先に、信号を渡るおじいさんの姿が見えた。 ゆっくりとはしているけれど、決して不安定ではない足取り。左手にかさを持ち、右手にパンの入った白い小さなビニール袋を提げている。 おじいさんが一歩一歩進むたび、透明なかさが、ゆーらりゆーらり揺れていた。 95歳になったとき、自分の好きなパンを、自分の足で、近所のパンやさんに買いに行けるって何だかとってもいいな、そんなことを思いながら、おじいさんの後ろ姿を見送った。 それにしても、3つのパンは何だったんだろう……。 |