奥庭の向こうの、土塀の外は一面の松林であった。
是処から、二つ、三つと、「松蝉」が鳴きそろって、ひとしきり鳴きこめたかとおもうと、はたとやみ、間をおいてまた鳴きはじめる。
この頃読みなおしている、池波正太郎の鬼平犯科帳の一節です。この作家はこのセミが好きで、さまざまな場面に「松蝉」が、登場してきます。「松蝉」の標準和名は、ハルゼミで5月のはじめから、6月の中頃まで松林で見られます。鳴き声は、少し低い「ジョーンジョーン」と聞こえ、1頭が鳴き出すと周囲のセミも一緒に鳴き出し、しばらくすると鳴きやみます。松の木に卵を産むため最近では松林がなくなったので、声を聞く機会も減って来ました。このセミなかなか警戒心が強く、アブラゼミやクマゼミのように良く目立つ幹に止まっていることは少なく、横枝に止まっていて、近づくとそっと移動して枝の陰に隠れてしまいます。このセミの声が聞こえなくなると間もなくニイニイゼミが鳴きはじめ、梅雨明けとともに大きな声のアブラゼミやクマゼミが鳴き始めます。
それにしても、小説家は文章が上手だな。