お天道様はみているぜ。 第11作『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』から 第11作『寅次郎忘れな草』の冒頭の「寅さんの夢」は、股旅物のパロディーです。寅さんは御政道に逆らって追われる身となった男。さくらたちを苦しめる悪人どもを倒します。そして「いずれ御政道が改まりゃ、晴れて兄ちゃんと 笑顔で会える日が」きっと来るといい、「お天道様はお見通しだぜ」とニッコリ笑います。 お天道様とは太陽のことですが、大辞泉によれば「天地をつかさどり、すべてを見通す超自然の存在」とあります。日本人は古来、お天道様に畏敬の念を感じ、悪い事をすれば、すべてお見通しだと、自分たちを戒めてきたのです。 さて寅さんは、根無し草のような、自分のそれまでの暮らしを戒めて、真面目に働こうとしたことが、何度かあります。 『寅次郎忘れな草』では、網走で出会ったリリー(浅丘ルリ子)と自分たちの暮らしは「あぶくみたいなもの」と、ことばを交わします。この後、寅さんは、このままではいけないと、職安に赴いて、農繁期の牧場に住み込みで働くことにします。夫婦と中学生の娘、三人だけの牧場では、猫の手も借りたいほど忙しい時期だったので、大歓迎されますが、肉体労働とは無縁の寅さん。三日目で音を上げてしまいます。 結局、さくらが迎えに来て、柴又へ帰った寅さん。おいちゃんが昼間からパチンコしたり、タコ社長が無駄話をしている日常にたまりかねて、「おいちゃんみてえな人間が俺の身内だというだけで、北海道の開拓部落の人々に顔向けができないんだよ」と言い、博には「労働者の代表みたいな顔して」と激しい口調です。大仰な言い方ですが、寅さんは大真面目です。 そこで寅さんは皆にこう言います。「お天道様はみているぜ」。 寅さんは題経寺の門前に育ち、神仏に手を合わせ、ときには教会で十字を切ることもあります。特別な信仰はないそうですが、「お天道様に恥じない」生き方をしたい、というのが寅さんの行動原理の基本にあるのです。だから、今の日本を見たら、寅さんはきっというと思います。「お天道様はみているぜ」と。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |