東日本大震災の復興のシンボルとなった「奇跡の一本松」といえば、岩手県陸前高田市が有名だが、福島県南相馬市鹿島区の右田浜海岸にも、津波の被害から生き残った「かしまの一本松」がある。しかし今、立ち枯れの危機にある。高さ約25メートル、根回り約2メートル。葉はついているが、やや赤茶けている。幹は傷だらけで薬剤を塗った跡が痛々しい。 震災前、一帯には50数戸の民家があり、守るように数万本もの松が林をつくっていた。しかし高さ十数メートルに達した津波に流され、この松一本だけが残った。行政区長も務めた五賀和雄さん(75)によると、住民の死者は54人、行方不明者も19人に上った。 五賀さんは「今も海を漂っている魂が、この松を見ているような気がする」と、仲間と「かしまの一本松を守る会」をつくり会長となり手入れを続けてきた。防潮堤防が壊れたため一帯は、海が荒れると潮水が押し寄せる。一本松の根の周りも海水に浸かった。排水路を掘り、土のうを積み、もみ殻などの活性剤も与えた。 しかし、昨年9月ごろ葉の色が赤く染まり、樹皮がボロボロとはがれるようになった。樹木医に「水を吸い上げる力が弱っており、回復する可能性は低い」と宣告を受けた。 五賀さんらは、一本松のまつぼっくり二百個などを茨城県日立市にある森林総合研究所材木育種センターに託した。すると今春、三つの芽が吹いた。今は高さ10センチほどに育っている。 「この松に、どれほど勇気づけられたか。地域の人は忘れられないんだ」。住民たちは、もう一度奇跡が起きないかと願っている。 (福島特別支局・坂本充孝) × × 誤字脱字写し間違いあります。
涙もろくなった私、写していて鼻かんだり涙拭いたりの囲み記事でした |