エミン・ユルマズ氏 |
>文春オンライン >アメリカの本音は「中東にいつまでも付き合えない」? ガザの悲劇の裏側で進む “対中国” を見据えた軍事的リソースの再編 >エミン・ユルマズによるストーリー・ >12時間・ >〈イランは米軍事産業にとって“ありがたい存在”? エミン・ユルマズ氏が分析する「中東の混乱」で巨額の利益を得るアメリカ〉から続く > 死者7万人超の凄惨を極めるガザの悲劇。 >その裏でアメリカは、イスラエルへの巨額支援を続けつつも、本音では「対中国」へのリソース転換を図る。 > 『エブリシング・ヒストリーと地政学』 が話題のエミン・ユルマズ氏が、アメリカの地政学失策から軍事的再編まで解説する。 >◆◆◆◆ >イギリスの三枚舌外交が招いた“大災厄” > イスラエル・パレスチナ問題は非常に根が深く、古くは19世紀後半、オスマン帝国領パレスチナで、ヨーロッパでのユダヤ人迫害を機に、「祖国回復」を掲げるシオニズム運動が興ったことにさかのぼる。 > ここでは駆け足で説明すると、第一次世界大戦中にイギリスの三枚舌外交で、ユダヤ人には「パレスチナにユダヤ人国家を建設することを支持する」と約束し(バルフォア宣言)、アラブ指導者フセインには独立支援を約束し(フセイン゠マクマホン協定)、フランスに対してはサイクス゠ピコ協定で領土分割を密約する。 >戦後パレスチナはイギリスの委任統治領となるが、シオニストによる移民・土地購入が増加し、アラブ人との対立が激化し、アラブ人による反乱も起こる。 > 第二次世界大戦後、ナチスドイツによるホロコーストの衝撃でユダヤ人国家設立の声が国際的に高まり、国連はパレスチナをユダヤ・アラブの二国家とし、エルサレムを国際管理下とする分割案を可決。 >ユダヤ側は受け入れたが、アラブ側は土地配分の不公平を理由に拒否する。 > 大きな悲劇が起きたのはイギリス撤退後の1948年――。 >ユダヤ側が突如イスラエルの建国を宣言し、第一次中東戦争が勃発。 >軍事力による民族浄化、土地・財産の収奪で、約70万人のパレスチナ人が難民化し、ヨルダン川西岸やガザ地区に難民キャンプが形成された。 >これを「ナクバ」(アラビア語で大災厄の意)と呼ぶ。 > 1967年の第三次中東戦争(六日戦争)においては、イスラエル軍はシナイ半島、ゴラン高原、東エルサレムを含むヨルダン川西岸、ガザ地区を占領。 >国連は撤退を求める決議を採択したが、占領は継続し、紛争は長期化した(図参照)。 > 1970~1980年代にかけてイスラエルが最も敵視したのが、パレスチナ人の民族自決権や離散パレスチナ人の帰還権を求めるPLO(パレスチナ解放機構)であった。 >設立当初のPLOはイスラエルの撲滅を掲げていたが、1969年にアラファトが議長になってからは、第三次中東戦争でイスラエルが占領した地の返還、イスラム教徒、キリスト教徒、ユダヤ教徒が共存する民主的・世俗的なパレスチナ国家の独立を目指すようになった。 >PLOの弱体化を狙うイスラエルは、ガザでイスラム主義運動を展開していたハマスの前身のスムリム同胞団を支援した。 >宗教的なイスラム主義運動が拡大すれば、世俗的なPLOの支持基盤に分裂が生まれ、弱体化すると踏んだのである。 >「ハマスは、イスラエルの創造物だ」 > だが、このイスラエルの近視眼的な戦略は、交渉可能であったPLOに比べて、よりイデオロギー的に硬直化し、妥協を許さず、イスラエルの存在そのものを否定するハマスという過激組織を生んでしまった。 > 元イスラエル高官のアヴナー・コーヘンが、「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙に「ハマスは、非常に残念なことに、イスラエルの創造物だ」(2009年1月24日)と語っているのは象徴的だ。 > アメリカがソ連に対抗して都合のいい抵抗勢力だったムジャヒディンを援助したことが、のちにアルカイダを生んだことと相似形の歴史的過ちがここにはある。 > 1993年にイスラエルとPLOは「オスロ合意」を結び、イスラエルを国家として、PLOをパレスチナの自治政府として相互に承認することを確認したが、ハマスはこれを真っ向から非難。 >自爆テロをふくむ暴力的な抵抗で、和平交渉そのものを揺るがした。 > ハマスが民衆に支持された背景には、オスロ合意後もイスラエルの入植拡大が止まらなかったこと、追い詰められたパレスチナ人の生活は改善せず、パレスチナ自治政府に腐敗が蔓延していたという事情もある。 >その帰結が、2006年のパレスチナ立法評議会選挙でのハマスの圧勝であった。 >この選挙結果に対して、ハマスをテロ組織とみなすイスラエル、アメリカは承認を拒否し、厳しい経済制裁を科すと同時に、今度はPLO主流派のファタハに武器を供与する。 > イランの手厚い支援を受けたハマスと、ファタハの対立は激化し、2007年にハマスは武力でガザ地区を制圧。 >一方、ファタハはヨルダン川西岸地区の支配を強化し、パレスチナは地理的にも政治的にも分裂した。 >こうして統一されたパレスチナの交渉相手がいなくなってしまったことは、より和平への道が遠のくことを意味する。 >「天井のない監獄」とも呼ばれるガザ地区では、長年にわたってハマスとイスラエルの衝突が続いたが、圧倒的な軍事力を背景にイスラエル軍は多大なる被害をガザ地区に与えてきた。 >イスラエルによるガザ地区への輸出入停止命令などで緊張が極度に高まっていた直後の2023年10月、ハマスによるイスラエル領土への奇襲が起きたのである。 >死亡者数6万人を超える“民族浄化” > ガザでの戦闘は混迷を極め、今やトランプ大統領がパレスチナ住民210万人を永久移住させ、アメリカがガザ地区を「引き取る」提案まで出たが、これはもはや民族浄化(エスニック・クレンジング)にほかならない。 > 現在、ガザでの死亡者数は6万人を超え(BBC発表)、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によると死者の7割近くが女性と子どもと発表されている。 > 私は、イスラム過激主義というイデオロギーは“中東の癌”だと思っている。
そうですね。
>一般市民を巻き込んだ無差別テロや誘拐、自爆テロは、いかなる理由があってもイスラムの教えに照らして正当化されるものではない。 >ムスリム同胞団、ハマス、ヒズボラのようなテロ組織の思想は、イスラム教そのものを汚していると確信している。 > だが同時に、大国による巨額の資金提供・軍事的支援といった短絡的な地政学的戦略の過ちが、しばしば将来にわたってより強大な脅威と、一般市民への深刻な人道的危機を生み出してきた現実から目を背けてはならないだろう。 >テロ組織、覇権国家、ともに無実の貧しい人々が犠牲になる横で、バイオレンスによって儲かっている者たちが必ずいるのである。 >イスラエルへの支援を惜しまないアメリカの心理 > よく日本の読者から、アメリカはなぜそこまでイスラエルに肩入れするのか疑問に思うという声が聞かれる。 >イスラエルは第二次世界大戦後、アメリカの対外援助を最も潤沢に受け取った国であり、その総額は1740億ドルを超える(U.S. Foreign Aid to Israel:Overviewand Developments since October 7, 2023)。 > 実は1986年に当時上院議員だったバイデン前大統領は「イスラエルという国がもしなかったら、我々が発明しなければならないだろう」ということまで語っていて、中東をコントロールする安全保障上の最重要ファクターと見ていた。 > アメリカ人のメンタリティをもう少し深掘りすると、アメリカの有権者の約4分の1を占める福音派キリスト教徒の間には、「聖地エルサレムへのユダヤ人の帰還は聖書の預言の成就」とみなす宗教的信念が存在する。 >この世界観のもとでは、イスラエル支援は神聖な義務として捉えられるわけだ。 > そこには、第二次世界大戦中、ホロコーストを防げなかったことに対する欧米諸国の罪悪感もあるのだろう。 >ユダヤ人のための安全な避難所を確保すべきという道徳的な責務感は、歴代のアメリカ大統領によって、イスラエルの安全保障にコミットメントすべき理由としてたびたび言及されてきた。 >「中東の独裁の海に浮かぶ孤高の民主主義国家」というナラティブが、アメリカ建国の開拓者精神を刺激してやまないのかもしれない。 > そして何よりも、石油という重要資源の安定的確保、中東の対立から得られる軍産複合体にとっての莫大な利益が絡んでいる。 >これらの要素が絡まりあって、イスラエルの軍事行動に対してアメリカは無条件的な支援を与え続けてきたのだ。 >「対中国」を見据えて軍事的リソースを再編 > だが、ここにきて、アメリカは国家安全保障戦略の根本的な転換を図ろうとしている。 >9.11以降の「対テロ戦争」は優先順位を下げ、代わりに中国、ロシアとの「大国間競争」が最重要課題として浮上したのである。 > その予兆は、2017年のトランプ政権下で発表された国家安全保障戦略ですでに現れていた。 >イスラム過激派との「対テロ戦争」から、中国とロシアとの「大国間競争」へと戦略の重心を移行させるという方針が織り込まれ、これは続くバイデン政権にも引き継がれ強化されていた。 >外交的・軍事的リソースをインド太平洋地域へ移すという戦略だ。 > 2013年頃から米中新冷戦は始まっていたが、気づけば中国は200万人規模の現役軍人を抱え(アメリカは143万人ほどだ)、防衛予算はアメリカに次ぐ世界第2位で、航空戦力と核弾頭保有数は世界第3位、艦艇隻数にいたっては世界最多を誇るようになっており、世界第2位の経済大国となっていたのである。 >今後の覇権争いを冷静に考えたとき、ウクライナ戦争への援助で総額1800億ドル以上もの支出をしているアメリカにとって「中東とアジア太平洋と同時に戦える力はあるのか?」というリアルな問いに対する答えは明白だった。 >中国の「一帯一路」構想で重要な役割を担うイラン > 第二次トランプ政権下で、中国の脅威は強く意識されている。 >中国による台湾侵攻の可能性もあるなかで、主力の軍事的リソースは中国を取り囲むような形で再配備したいのである。 > いつまでも中東のいざこざに付き合っている暇はないというのが本音だろう。 >先にも述べたようにペトロダラー体制はゆらぎ、中東の石油の地政学的な重要性はアメリカにとって相対的に低下している。 >イスラム原理主義勢力、イランの核開発という火種となる要素は早めに潰して中東の優先順位を下げたいという思惑が見え隠れする。 > 2025年6月の核施設への空爆後、どこまでイランに対して踏み込んでいくかは未知数だが、腹の底ではイランの政権交代を狙っているように思う。 >ただし、それをすぐに実行するかどうかはわからない。 >フセインのクウェート侵攻に端を発した1991年の湾岸戦争のときもすぐには体制を転覆させず、実際にフセインを追い詰めたのは2003年のイラク戦争においてだ。 >弱体化させてから本格的に叩く、というのもアメリカがしばしば行ってきた手だ。 > アメリカは、「大国間競争」を見据えて、次世代の軍の装備のあり方も、テロリストとの非対称戦ではなく、中国人民解放軍のような高度な技術を持つ敵とのハイエンドな兵器(AI兵器も含む)による戦闘を意識し始めていると言われている。 > このようにアメリカの地政学的な思惑というフィルターを通して中東情勢を分析すると、地上軍を投入してイランとの全面戦争をはじめるつもりもなければ、イスラム過激派との戦いに深入りすることもないと私は見ている。 >アメリカが「戦略的競争相手」として強く意識するのは中国なのである。
そうですね。
> 今回のイラン核施設への攻撃を非常に苦々しく思っているのは中国だろう。 >過去数年戦略的にイランへのインフラ投資を行ってきた中国は、単に割安で石油を輸入できるのみならず、イランは「一帯一路」構想で重要な役割を占めており、イランもまた軍事力を増強するために「数千トン規模の弾道ミサイルの原料」を中国に求め、両国は緊密な関係を築いてきた(「ロイター日本語版」2025年6月18日)。 >イランが弱体化すれば中国の中東への外交的影響力の低下はまぬがれないだろう。
そうですね。
>(エミン・ユルマズ/ライフスタイル出版)
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