|
タブレットを使った学習って、本当に意味があるんでしょうか? 正直に申し上げて、タブレット学習は必須ではありません。 むしろ、やり方によっては逆効果になることもあります。 僕自身、一貫して「勉強にタブレットは不要派」です。 (予定の共有や連絡用途などは除きます。ただ、ここ数年で記述力が低下している現状を踏まえると、「予定さえも自分の手で書いた方がいいのでは?」と思うことも増えてきました。) 一方で、AIを使いこなす力は、これからの時代において確実に必要です。 そこで今回は、「タブレット」「AI」「パソコン」――この三つをしっかりと区別しながら、教育現場に立つ立場として感じていることを整理してお伝えしたいと思います。 タブレット学習の効果は限定的 文部科学省が二〇二三年に実施した全国学力・学習状況調査では、 授業でのタブレット使用頻度が高い学校ほど、国語や数学の正答率が低い傾向があったという報告が出ています。 また、経済協力開発機構(OECD)の二〇一五年のレポートでも、 ICTを多用する授業では、学力の向上は確認されなかったと記されています。 つまり、タブレットを使ったからといって、成績が自動的に上がるわけではないということです。 現場でもこうした声が聞かれます。 ・画面を眺めているだけで、書かないから覚えない ・集中力が続かず、他のアプリに気が逸れてしまう ・答えを適当に選んでも、すぐ正解がわかるから考えなくなる 子どもの学力を本気で育てたいなら、便利な道具に頼りすぎず、まずは「考える力」そのものを鍛える必要があります。 でも、AIはまったく別物です 「タブレットがいらないなら、AIも同じでは?」と思われるかもしれませんが、それはまったくの別問題です。 AIは、教材ではなく思考のパートナーです。いわば補助脳のような存在だと考えています。 スタンフォード大学の研究(二〇二三年)によると、ChatGPTを活用してタスクに取り組んだグループは、個人で取り組んだグループよりも、成果の質もスピードも明らかに上回っていたと報告されています。 一人で考えている人と、AIと一緒に考えている人。 この二者を比べたら、後者のほうが圧倒的に強い。 それが、これからの現実です。 AIを使いこなすには、学力が必要 AIを活用するには、「任せれば何とかしてくれる」という姿勢では足りません。 むしろ、AIを使いこなすには、それを使う側の土台となる学力が不可欠です。 たとえば、AIにこんな指示を出すには、やはり自分の頭で考える力が求められます。 ・この英文の主張を要約して ・このグラフから言えることを三つ挙げて ・この問題の別解を考えて 問いの質が低ければ、出てくる答えも当然浅くなります。 言葉、論理、読解、思考の力がなければ、AIを使いこなすどころか、逆に振り回されてしまうかもしれません。 だからこそ、まず人間がしっかり勉強しておくことが前提であり、そのうえでAIという道具を活かす力が求められるのです。 AIに頼ると考えなくなる? よく、「AIに早くから頼ってしまっては、子どもが自分で考える力を失うのでは?」という声も耳にします。 もちろん、その懸念には一理あります。 ただ、こうした意見の多くは、今の時代の情報環境を見落としているようにも感じます。 というのも、子どもたちはすでに、Google検索やYouTubeといった便利すぎる情報源に日常的にアクセスできる環境で生きています。 「自分で考える機会を奪う」のは、AIだけではなく、従来の検索エンジンや動画解説も同様です。 つまり、AIだけを特別視して危険だと言うのは、すでに便利な道具が身の回りにあふれている現実から目をそらしているとも言えます。 今必要なのは、「便利な道具を排除すること」ではなく、「便利な道具との付き合い方を教えること」です。 AIを禁止するのではなく、AIをどう使えば深く考える手助けになるか。 その問いを一緒に考え、練習し、試行錯誤することこそが、これからの教育に求められる姿勢だと思います。 タブレットより、パソコンを早めに使わせた方がいい理由 ここで、もうひとつ現場で感じている大切なことがあります。 それは、タブレットを配るくらいなら、パソコンを早めに使わせた方がいいという点です。 なぜかというと、タブレットは基本的に受動的なツールだからです。 見る、選ぶ、タップするといった操作は、受け取る力にはつながりますが、自分で考え、表現する力を育てるには不十分です。 一方で、パソコンはアウトプットができる道具です。 ・タイピングで自分の意見を表現する ・調べた情報をスライドやレポートにまとめる ・プログラミングや表計算に挑戦する ・AIとやりとりしながら文章を磨き上げる こうした学びによって、子どもたちの「自分で考え、自分で作り出す力」が育っていきます。 また、現在のAIツールの多くはパソコン操作を前提として設計されています。 AIを本格的に使いこなしたいなら、タブレットより先に、まずはパソコンに慣れておくことの方がずっと重要です。 余談:タブレットが効果を発揮する条件とは ここまでタブレット学習は不要だと強調してきましたが、使い方によっては効果が出るケースもあります。 たとえば、 ・理科の実験動画や地理の立体図などを視覚で理解する ・英語のリスニングや発音トレーニング ・即時フィードバックが返ってくるAI型ドリル といった学習では、タブレットの強みが活かされます。 ただし、こうした使い方にも条件があります。 指で画面をなぞるだけでは、記憶にはなかなか定着しません。 東京大学の池谷裕二教授は、手で書くことによって脳の広範囲が活性化され、記憶が深く残ると述べています。 実際、スタイラスペンを使って手書き入力をすることで効果が高まるという研究結果もあります。 タブレットを使うなら、ペンを持たせて書かせること。 それが学習効果を引き出す最低限の条件になります。 最後に:本当に必要なのは、使いこなす力 ここまで読んでくださった方には、きっと伝わっていると思います。 これからの時代に必要なのは、道具そのものではありません。 どんな道具を持っているかではなく、どんなふうにそれを使いこなせるか。 それを決めるのは、人間の学力であり、思考力であり、表現力です。 そりゃ、ドラえもんが横にいるのび太は強いに決まっています。 でも、のび太が使い方を知らなければ、どんなひみつ道具も意味を持ちません。 AIは、現代のドラえもんです。 だからこそ、私たちは「AIを与えること」ではなく、 「AIを活かせる人」を育てることを目指すべきではないでしょうか。 【参考文献】 ※1:文部科学省『令和5年度全国学力・学習状況調査 報告書』 ※2:OECD(2015)"Students, Computers and Learning: Making the Connection" ※3:Noy, S. & Zhang, W. (2023). "Experimental Evidence on Productivity Effects of Generative AI", Stanford University ※4:池谷裕二『できない脳ほど自信過剰』(講談社) ※5:University of Nebraska(2020)"Digital Ink and Learning Effectiveness Study" |