第三章 守る意識 グランドを俯瞰する視点 どの守備位置でもそうだが、とりわけショートというポジションにとっては、最初の一歩が命取りになる。一歩目が遅れると、アウトにできる打球もセーフになってしまう。どれだけ速く動けるかが、守備範囲の広さにつながるのはいうまでもない。 「一歩目を速くするためには、打つ瞬間に意識を集中しなさい」 少年野球では誰もがこう習うと思うが、これは大きな間違いだ。打つ瞬間に集中していては、絶対に一歩目が遅れてしまう。 ショートというポジションでいえば、ピッチャーが投げるボール、バッターのスイングの軌道が視界に入る。その情報から「(守備位置の)右に打球が来る」「左に打球がくる」というのはある程度、予測できる。打つ瞬間だけに意識を集中すると、それまでの情報を頭のなかから消してしまうことにつながるからだ。 プロ野球ではスコアラーが各打者の打球方向などをまとめたデータを作成している。もちろん、そのデータが土台にはなるが、バッターの動きやその日の調子で、守備位置には若干の変更を加えていた。 捕手のサインを見て守備位置を変える選手もいたが、私は投手が投げミスをする可能性もあるので守備位置を変えることはしなかった。ただ、投手が投げる球種だけは必ず頭に入れていた。バッターの傾向として、ストレートはこちらに多く飛び、変化球はこちら側に飛ぶというのは、経験としてある程度頭のなかに入っている。投げるコースで守備位置を左右どちらかに寄せることはしなかったが、意識としてこちら側に飛ぶだろうというのはあった。 最初の一歩を速くするためにはどうすればよいか。打撃でもなんでもそうだが、下半身がその土台になるのはいうまでもない そのためには、足を自由に使えるようにならないといけない。意識してから動くのではなく、無意識で動かしたいと考えていた。足は脳から一番遠い場所にある場所である。覚えこませるのに時間はかかるが、その分、一度覚えたらなかなか忘れないところでもあると考えていた。足に覚え込ませるためにはやはり、反復練習しかない。 言葉で表現するのは難しいが、「右に来る」「左に来る」と口に出すように意識してから動くよりは、無意識に瞬間的に動いたほうが速いはずだ。 「木を見て森を見ず」という言葉があるが、物事の一部分や細部に気を取られていては、全体を見失ってしまう。これは守備においてもいえることなのである。 怪我をして、試合を神宮のバックネット裏上段のスタンドから見たことがあったのだが、この視点でプレーできたら、どれだけ楽しいだろうと思ったことがあった。 相手ベンチやバッターの動き、味方の守備位置をグランドの上から俯瞰(ふかん)した視点で見ながら、守備位置を変え、味方のピンチを未然に防ぐ。 もちろん現実的には難しいことだろうが、意識を離れてグランドを俯瞰する視点を持つことができないだろうかと、ずっと考えていた。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |