忍野桂川は懐かしい川だ。 初めてこの川で釣りをしたのは1982年頃だったと思う。当時はずいぶんと通ったものだ。この川には大きなブラウントラウトがいて、昼間は釣れないが夕方から夜にかけてヒゲナガカワトビケラという3cmくらいの大きな虫が水面に現れるころ、その虫を食べにブラウントラウトが出てくる。6時頃には川にいて、9時頃まで釣ったものだった。 ある日の夜、川に立ち込んで釣っていた(当時は立ち込んでよかった)とき、木々の間に月が見えていた。満月だったように記憶している。その月を時々見上げながら釣りを続けたわけだが、あるとき、月が欠けてきたのだった!3分の1ほど欠けて、それからまた元の満月に戻っていった。その日は月蝕に当たっていたのだった! 今回、8月12日、掛川のフライフィッシングスクールの番外編が忍野桂川であった。10人くらいの釣り人が集まり、夜の8時頃まで釣りを楽しんだ。昼間はとても暑かったが、達橋さんの心づくしのソーメンがおいしかったな。ノリさんもハイテクを皆に見せてくれたし。僕はもっぱら日本語ができないデイビッドと一緒に釣りをした。彼は夕方、ヒゲナガパターンにガツンと来るアタリに大声をあげて興奮していた。残念ながら釣れなかったけどね。 お盆休みを一人で気ままに過ごしたいと思っていた僕は皆と別れた後、昌苑という中華料理屋で飯を食い、忍野のホテル・ベルに泊まった。ここは快適なホテルで、前にも泊まったことがある。昼間は暑かったが、夜には気温は20℃となり快適だった。ホテルの窓を開けてひんやりした空気が部屋に入ってくるのを楽しむ。シャワーで汗を流した後、ベッドに寝転がって山本素石のツチノコの本を読んだ。一つの話の半分くらい読んだところで猛烈に眠くなった。窓を開けたままだと風邪をひきそうなので、閉めて寝た。あくる日には何をするのか、まったく決めていなかった。まあ、適当にやろう、こんな休みが一番贅沢なんだから・・・。 熟睡したらしく、翌朝目が覚めたら4時半だった。窓の外をみると、シトシトと小雨が降っていた。お、これはいいな、カゲロウが出るかも知れない、出なくても朝一ならいい釣りになるかもしれない、だいいち暑くならないのがいい、と思い、桂川に行くことにした。 5時半には川にいた。富士急ホテルのあった場所に車を停める。 川には朝靄がかかり、とても静かだった。 ライズは無かったが、なんとなく僕は嬉しかった。 僕は釣り姿になって、川のそばの”釣り人の小径”を歩きながら、もっぱら写真を撮った。 もちろん、釣りもしたし、5-6匹の魚を掛けたが、釣れて嬉しいと言うより、静かで、美しい川と木々に囲まれているのが嬉しかった。川岸の丸太に腰掛けてタバコを吸う。実にうまい!鳥が上空でチッチッチッと啼いた。ああ、俺はまだ生きていて、美しい流れのそばにいるんだな、としみじみと思った。 のんびりと釣り上がり、自衛隊橋を越えてS字まで釣り上がった。S字ではライズにつかまり、やっと1匹を掛けたがネットの柄が短くて取り込めず、結局逃げられた。その後、ライズは続いたが、鱒が何を食っているのか、わからなかった。時刻はお昼になり、やや疲れたし、腹も減ってきた。もう十分だと思い、川から上がることにした。 とまあ、こんなふうだった。一日は人のため、一日は自分のために過ごした。気分がよかった。 例によって写真をお見せしよう。 ..........