こんにちは。
私もそんな経験ございまして
実は先日、釣りの最中に川の中に鹿の内臓が
漂着しているのを見ましてそれは明らかに
人為的に投棄したものと思われる物ですが
まだ投棄して間もないものでしたので
異臭はしてはいませんでしたが
もの凄く驚いたのを覚えています。
今回は、深い山の中で気味の悪い体験をしたお話。 1年のうちで渓流釣りのベストシーズンはなんといっても春であり、関東近辺では5月だろう。ちなみに、カゲロウはフライフィッシングではもっとも重要な水生昆虫だが、カゲロウのことを英語ではメイフライ-5月の羽虫-と呼ぶ。 いま、その5月のまっただ中であり、1日の休日もムダにはできない。〈そろそろカゲロウがたくさん出ているだろうな、カワゲラやカディスも出るだろうし、こんなときにはイワナはとても素直にフライに出るからナ、フ、フ、フ〉、というわけで、16日の水曜日、心せきながら午前中に雑用をかたづけて、丹沢ホームフライフィッシングエリアに向かった。天気予報は晴れのち曇り。そこは標高450メートルの、布川(中津川の支流)上流部の自然の川をそのまま使った管理釣り場で、魚種はイワナ:ヤマメ:レインボウが8:1:1くらいだ。詳細略。 気持ちいい山道のドライブだった。新緑が美しく、藤の花が満開だった。”藤の花が咲くと毛バリ釣りは最盛期を迎える”と昔からいわれてきた。運転しながら〈フム、フム〉と納得しながら山道を釣り場へ急ぐ。1時間ほどで到着。リバーキーパーの新井さんとは古い顔なじみで、状況を聞き、この日は釣り場の最上流部に入ることにした。今日の竿はエデン・ケーンの7フィート4番、ティペットは5エックス、フライは定番のエルクヘア・カディス14番。風がやや強いが、この釣り場は川沿いに木が多いから風よけになってくれるからありがたい。 川へ降りる。そこには大きめのプールがあって、ライズを釣ろうとネバッている初心者風の釣り人が居た。初心者だとどうしてわかるのかって、そりゃあ、キャスティングを見ればヘタだからすぐわかる。追い越す形になるので、一声掛けようとしたら、座り込んで細かい作業をしていたので、僕は黙って上流に向かった。 その、彼から50メートルほど上流から、面白いようにイワナが釣れた。ほとんど、ポイントごとに魚が付いている感じだった。ライズはないが、ちゃんとフライを流すとバシャと水しぶきをあげてフライをくわえる。ここのイワナは淵じりの浅瀬に付いていることが多い。だから淵じりの横に立つと、イワナは驚いて逃げまどう。そこで、淵じりからかなり離れたところからキャストすると、面白いように釣れる。ある時などは、フライが淵じりに流れてきたときドラッグが掛かってしまった。それでもイワナはフライをくわえようと出てきて、フライが予定通りに流れてこなかったのでくわえそこなってしまった、ということもあった。釣れる魚は23~25センチメートルの綺麗なニッコウイワナばかりだった。途中、黒っぽいガガンボがたくさん飛んでいるところがあった。それ以外にもいろんな虫が飛んでいて、野生の生命にあふれていた。そんな、春の渓流を僕はいとおしく感じていた。 僕は夢中になって釣り上がっていった。200メートルほど進むと、両岸が急な坂となり、渓は狭くなってきた。両岸の木の枝が谷川を覆い、川は薄暗いところを流れていた。 あるとき、立ち止まってフライにフロータントを揉み込んでいた時、妙なにおいがした。それは甘酸っぱいような、臭いにおい、だった。気のせいとも思ったら、再びそのにおいがした。風向きによって、においがしたり、消えたりしていたのだ。何のにおいだろう、と僕は記憶をたどった。そして、思い当たった。それは腐敗臭であり、しかも、動物や人間の腐敗臭であった。ということは近くに死体があるということか!!!ひやりとした感じが背中を流れた。あたりを見回す。注意を集中してよくよく見る、死体、あるいは死体の一部がないかどうか!見たところでそのあたりに死体はないようだった。丹沢には動物が多いから、その死骸があってもおかしくはない。だが、もし、人だったら・・・。この時点で引き返す、という人もいるだろう。ところが僕は”事実を確かめるため”というか”怖いもの見たさ”というか、釣りを続けた。 それから後はきょろきょろしながらの釣りになった。一歩進むたびにあたりを見まわして、死骸がないことを確認してから釣りをした。そして数匹が釣れたが、一匹の大物には逃げられてしまった。釣りに集中できていなかったのかもしれない。その後、いつの間にかその異臭は消えていた。異臭を感じたのはある地点だけだったのだ。結局、動物の死骸も人の死骸も見つからなかったわけで、堰堤に行き当たったので、崖を登って道路に上がり、車までもどった。ほんの2時間たらずで十数匹が釣れていた。 この時点で再び、釣りをやめて帰るということを考えた。だがね、そうはいかないだろう。こちとらは筋金入りのフライフィッシャーマンなのである。時刻は4時半ごろであり、これからがカゲロウが飛ぶフライフィッシングの本番であることを知っているのだから。死体くらいで怖じ気づくヘナチョコ釣り師なんかじゃないんだヨ。と、背筋を伸ばして顎を引いて釣り慣れた下流部に向かったのだった。 夕方、たくさんのカゲロウが群れ飛んだ。カゲロウを捕獲しようとしたが帽子ではつかまらなかった。家内からは魚はたくさんキープしてきてちょうだいと頼まれていたので、夕方釣れた7匹のイワナと1匹のヤマメをキープした。 釣りをやめた時には真っ暗になっていて、ライトで足許を照らしながら車までもどった。異臭のことをリバーキーパーの新井さんに伝えようと丹沢ホームに寄ったが、彼は出かけていて留守だった。そして、僕は夜道を1時間走って家までもどった。と、ここまでがこの日の出来事である。 翌日、僕はあの異臭のことが気になって、丹沢ホームの新井さんに電話した。 「間違いなく動物の腐敗臭だったんだよ、あれは」と僕がいうと、新井さんは 「その異臭のことは他のお客さんからも聞いてます。それはですね、まず間違いなく鹿だと思います。子鹿かもしれない。丹沢では鹿が増えすぎて、餌に困った鹿が急な川岸にまで餌を取りに来るんですよ。そして、足を滑らせて落下して死ぬようです。死んだ鹿をこの1年で10頭は見てますから。」 「なるほどね。鹿が増えすぎていることは僕も聞いているよ。そうか、あのにおいは鹿の死骸だったのか。いや、その、もし人だったら大問題だと思ってね、電話したんだけど。」 「ハハ、そんなことは絶対ありません。私もしょっちゅう見回りもしてますし。」 で、異臭騒ぎ(?)も1件落着となった。 藤の花が咲き誇り、カゲロウが群れ飛ぶ生命の輝きと鹿の最後、すなわち生と死が鮮やかに織り込まれた一日だった。 |