我がクリニックではこどもの予防注射をやっている。お年寄りの患者さんが多い中、こどもや赤ちゃんが来るとにぎやかになり、雰囲気が明るくなる。あるとき、兄妹が予防注射に来た。お兄ちゃんは7歳ほどで、妹は4歳くらい。その女の子は注射で泣くかと思ったら、なんとかこらえて、泣かなかったが、目には涙がたまっていた。けなげだなあと思ってその子を見ていて、ハッと気がついた。その子は「となりのトトロ」のメイちゃんにそっくりだった。歳も、体つきも、着ているものも、顔も、髪型まで似ている感じがした。思わずボクは
「トトロのメイちゃんにそっくりだねえ」
と言った。すると、兄妹の顔がパッと輝いて
「メイちゃん!メイちゃん!」
と口々に大きな声で言う。母親まで嬉しそうだった。
僕はやや驚いていた。トトロはけっこう古いアニメなので子ども達は知らないかと思っていたら知っていたし(おそらく親が見せたのだろうが)、メイちゃんという名前を覚えていたからね。
母と子が診察室を出た後、ナースに
「よく子供がメイちゃんという名前を覚えていたなあ」
と言うと
「そりゃあそうですよ。アニメのキャラなんてすぐ覚えますよ」
と、そんなことは当たり前だという感じで言われてしまった。僕はこどもを育てたことがないので、その辺がピンとこない。
その日の夜、トトロのことを調べてみると、宮崎駿氏はもともとメイちゃんを中心にトトロを作るつもりだったことが分かった。そうだろうなあ、4-5歳くらいが想像力がいちばん豊かで、現実と非現実の区別がつかない年ごろだろうから。
で、年甲斐もなくメイちゃんのマグネット人形を買ってしまった。今も机の上の、正面にいる。
歩こう、歩こう、私は元気・・・