京都にキネヤというリールメーカーがある。かなり前からハンドメイドで特徴あるリールを作りつづけてきた。ボクはどんな人が作っているんだろう、一度会ってみたいもんだと思っていた。
ボクはいろんな釣り具をアメリカのネット販売店から買うが、その中の大手なのが、ReynoldsやLen Codellaのショップだ。ともに釣り具にとても詳しく、目が確かであり、値段も良心的(平均的か?)なので、安心して購入ができる。それらのショップで数年前からキネヤのリールを取り扱うようになってきている。そして、キネヤリールの評価は極めて高い。
ボクも日本人としてキネヤリールを1台は持っておきたいなと思っていた。そんな時に関西行きが決まり、土曜の晩はご招待でホテルに泊めてくれる。翌日曜はそのまま帰ってもいいが、ちょっともったいないなと思っていたときにキネヤのことを思い出した。そして、京都に住むKさんという友人が”京都に来ることがあったら声を掛けてください”と言ってくれていたこともあり、Kさんの車で京都の北の外れにあるキネヤの工房に行くことになった。
キネヤの工房は京都の北部にあって、車で1時間ほど走ったところにあった。キネヤ主人奥居さんの奥さんがユーフォリアEuphoria(医学英語で多幸症という意味)という喫茶店をやっていて、その中にリールが展示してあった。キネヤは奥居さんが一人でやっている工房で、きさくな方であった。喫茶店の一角にはドラムのセットがおいてあり、人には聞かせられませんが叩くのが好きなんですとのこと。腹が減っていたので、そこのドライカレーの卵包み(オムカレー)を食べたら、とてもおいしかった。
奥居さんにいろいろ聞き、工房を見せてもらった。彼はもともとクラシックカメラの修理を長くやっていて、金属の扱いに慣れていたそうだ。彼のリールはすべてが手作りであり、ビス1本から作っているそうだ。ストーンポリッシュというセラミックスの玉で金属を磨く機械も見せてもらった。彼は時にはグラスロッドやバンブーロッドも作るそうで、プレーニングフォームも自分で作ったそうである。
リールは目移りがしたが、結局301Bというリールを購入することにした。それとグラスロッドの4番6' 9"と、しゃれたフライパッチも買った。彼はアメリカ東海岸のロン・キューシーと友人であり、キャッツキルのロスコーにクラフトマンが作品を並べて販売する店を作りたいと言っていた。いい思いつきだと思う。
話に興じて気がついたら4時頃になっていた。
「がんばってください」
と握手をして、あたふたとキネヤさんに別れを告げ、京都駅に向かった。
ハンドメイドのリールメーカーは今では日本にもいくつかあるが、やはりキネヤがダントツだろう。いわば、キネヤは日本が誇るリールメーカーだと言っていいだろう。
京都市街に着いたころはもうあたりは暗くなっていた。Kさんにお礼と別れをつげ、再会を約した。おみやげはいらないと言われていたが、つい好物の赤福を買ってしまった。新幹線で弁当を食べたら猛烈に眠くなり、ケイタイの目覚まし時計をセットして、目を閉じた。〈うむ、昨日もいい日だったし、今日も楽しかった〉と満ち足りて、心地よい眠りに引き込まれていった。