今回の話は釣り人以外にはわかりにくいかもしれない。 丹沢に自然渓流を利用した「うらたんざわ渓流釣り場」という管理釣り場がある。家から近いから、僕は20年くらい前からオフシーズンには釣りに行っている馴染みの釣り場だ。 そこでは冬、ヤマメが空中に身を乗り出して何かを食べていた。初めは何を食べているのかまったく分からなかった。空中にはなにも見えないのだから。そこで、小川さんと二人で俗称ウラタンに通って調査を始めたのだった。 結論を言おう。ヤマメが食べていたのは極小のユスリカであり、体長は2-3ミリメートルしかない。ユスリカは水面上をゆっくりと飛び、ときどき水面に着水して、また飛び始める。産卵行動のようだな、と思い、水面上のユスリカを捕虫網で捕らえてみると卵塊を抱えたメスのユスリカだった。すなわち、ヤマメは水面上を低く飛ぶユスリカのメスにいたく食欲をそそられて、空中に身を乗り出して捕食していたのだった。 このようなライズをジャンプライズと言ったりリーピングライズと言ったりするが、島崎憲司郎はロケットライズと呼んでいる。トビケラ、オドリバエ、ブユなどが水面上を飛ぶときにこのライズが見られる、とものの本には書いてある。だが、ユスリカ、しかも産卵行動中のメス(エッグ・レイイング・ミッジ)に対してジャンプライズが起こることはまったく過去の本には書かれていない。どうやら僕と小川さんとは、とんでもない事実をつきとめたようなのだ。 いま、この内容をフライロッダーズという雑誌のために原稿を書いている最中だ。今日も編集部との打ち合わせの電話をしていたとき、僕が「当然カラーなんだろうね」と聞くと、「いえ、あの、白黒なんです」と言う。「え、ナニ、白黒!それはないよ。水生昆虫関連の記事なのに白黒じゃあ、読者はわからないよ」「すみません。かなりマニアックな内容なので・・・、とても面白い内容であることは分かっているんですが」「オリジナリティーの高い記事より、ハウツー物の方が扱いがいいのかい!そりゃあ、雑誌を売るためにはそのほうがいいとは思うがね。編集の姿勢に問題があるようだね」最後はちょっと捨てぜりふのようになってしまった。 商業ベースで仕事をしていると、やむを得ない、泣いてもらう、という事態が発生するということはわかってはいるが・・・。 今日はちょっと憮然としている。 扱いは悪くても内容で勝負じゃあ、と言うしかないね。 アホクサ、パチンコにでもいってくるか。