これはフリーペーパー(無料配布誌)であり、JINEN design roomによって2010年から発行されている。関東を中心に釣具店、アウトドアショップ、 セレクトショップ、管理釣り場などに配布されているようだ。ボクがこのパンフを知ったのはつい最近であり、雑魚川のことをネットで検索したら、このフリペの創刊号がよく引用されていたのだ。このフリペを読みたくて釣具屋に行ったり、あちこち電話したりしたが、入手不可能だった。そして、前回触れたように、奥志賀漁協でやっと手に入れることができたというわけだ。 読んでみて、とても感心した。現在の問題点を適切にとらえ、取材によって、現場の声を正確に伝えている。無理に結論づけようとせず、ありのままに伝えたいという編集方針に好感が持てる。これだけの内容のものが関東圏内だけでしか読まれないのはもったいないと思う。 「あなたの釣り」創刊号、放流する川、しない川、2部構成 第1部は、放流する川 世附川・大又沢 放流する川の例として西丹沢の世附川・大又沢をとりあげ、管理をしてきた齋藤明憲氏にインタビューしている。彼は、1995年からYOZUKUスポーツフィッシングエリアを行政指導の元に高令者からこどもまでより多くの人に楽しんでもらうための地域活性の一環と考えて運営してきた。川の有効利用であり、人間が使いやすいように改善し、保護していくことが自然保護だと言い切る。都心からも近く、釣り人が多い川の管理について、齊藤氏は自らがやってきたことを語っている。 ボクもYOZUKU・・・にはずいぶんと通ったものだが、2年前だったか、大きな台風が2つもきて、美しい世附川は崩壊し、土砂の下に埋まってしまった。残念この上ない。 第2部は、放流しない川、雑魚川、である。いまでは雑魚川は本州ではまれな原種の天然イワナの川として知られているが、志賀高原と雑魚川を語るとき、まっさきに出てくる人が居るという。それは昭和2年に地元で生まれ、17歳で予科練に行き、特殊潜航艇に乗り、出撃2日前に終戦となって生き残り、”(死んだ)あいつらのために生きてやれ”と思い定めて、郷里の自然を命を賭けて守った山本教雄氏のことだ。彼は雑魚川上流部に山小屋(山本小屋)を建てて住み、植林をやり、自然公園指導員となった。昭和38年頃には志賀高原に観光開発の波がおしよせ、宿泊・観光施設の排水によって雑魚川は汚染し、その結果イワナは激減し、奇形が生まれた。昭和46年に志賀高原漁協の役員になった山本は雑魚川保護に動き出したのだった。その活動はかなり過激であり、汚染地区一帯のホテル、旅館、住民を告発したりした。ついには漁協という水利権者の立場で川からの取水禁止をやったりしたらしい。その結果、しだいに地域住民の理解も得られるようになり、共同汚水処理場が作られた。その結果、汚染は1200ppmから5ppmに下がり、雑魚川は急速に回復していったが、彼の密猟者への対応はことに厳しかったらしい。さらに山本は自然保護をおびやかす問題に正面から反対し、ゴミ問題、スキー場建設、さらにはオリンピック対策をも手がけた。工事の後は表土をもどさせ、地下水路までも保全させた。そして、いつの間にか「山本式」ということばが生まれた。彼は皆から”オヤジ”と畏敬の念を込めて呼ばれていた。 山本教雄がいつも口にしていた言葉:「人に逆らっても、自然には逆らうな」「プライベートなことでパブリックを犠牲にしてはならない」がある。 須田治氏は「地性の人々」という本の中で、山本教雄が「自然から教わって謙虚になれば、必ず自然は応えてくれる。このイワナを見てごらんよ」と言ったのを聞いている。その山本教雄氏も1998年に亡くなった。 とまあ、前置きが長くなったが、現在の奥志賀漁協の根本理念は山本式を受け継いでいるわけだ。雑魚川の遊魚規則は体長制限だけであり、20センチメートル以下は採捕禁止となっている。一般の渓流より5センチメートル大きい。日釣り券は500円、年券は3000円と安い。 放流は成魚、稚魚、発眼卵を含め、これまで一切行っていない。これは、16の支流を種沢として禁漁にしたことで、たくさんのイワナが居るようになったそうだ。竹節組合長のことば:「以前、放流をしようとした際に、イワナの中にニジマスが混じっていることがあるという話が出まして、それはマズイということになったんですよ」「禁漁の沢と徹底した水質管理、この2点だけでじゅうぶん魚は増えるんですよ」「皆、釣れない釣れないって文句を言うけど、それは魚を追い込んでいるだけで、実際、魚は居るんですよ。その証拠に禁漁になってしばらくしたら群れをなして泳いでるもんね」「県から内水面条例で決められている義務放流をやれとずいぶん言われましたね。その対応に苦労しました」「川を維持するための決めごとはオヤジがしっかりレールを引いてくれました。こんなすばらしい川、日本でもザラには無いですよ。その川を守ろうと言ってるんです」 もはや、ボクが付け足す必要は何もない、と思う。「あなたの釣り」は、2つの実例を示し、釣り人として考えていきましょうと言っているわけだ。このフリペの今後の継続を期待したい。 故山本教雄