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2007年10月18日(木) 
 やや奇をてらったタイトルのように見えるが、本音である。この歳になって初めて体験することなど少なくなってしまったが、今回は長い釣りの経験で、初めてのことであった。
 場所はうらたんざわ渓流釣り場、昨日のことだった。自然渓流を利用したC&R区間に行ったときのこと。お気に入りのポイントに行くとすこし異臭がしたが、丹沢ではよくあることなのであまり気にもとめなかった。
 釣り始めたが、ライズは散発的でなかなか釣れない。すると、下流の対岸側でときおり激しい水音がするのに気がついた。近づいてみると、対岸はやや急な岩壁になっていて、岩壁の隙間から水が川に流れ込んでいて、その落ち込みで時おり、魚が水しぶきをあげて何かを捕食していた。


 ほほう、何かが流れ込んでそれを食ってるらしいな、テレストリアルがいいだろうなと思ってレネゲイドを使ってみた。2投目くらいでうまく落ち込みにフライが落ち、流れて、バシャと魚がフライをくわえた。寄せてみるとなかなかのイワナだった。写真を撮り、ストマック・ポンプで胃の内容物を調べる。すると、白いカスのようなものがたくさん出てくる!なんだこれはと思い白い皿に入れてみると、1センチくらいの白い虫が数匹見えた。そのうちの1匹はまだ動いていた、身体を伸び縮みさせて・・・。
「これは・・・、ナント、ウジだ!」
そのイワナは腹一杯にウジ虫を食べていたのだった!!!


 僕は鱒類の胃からウジ虫が出てきたのをこれまで見たことがない。本に書いてあることも稀であり、あるアメリカの本で、牧場を流れる川で釣るときはウジ虫パターンを用意しておいた方がいいと書いた人がいる。その理由は牛の糞に蝿が卵を産んで、雨の後などにウジ虫が川に流入することがある、というものだった。
 僕はなぜウジ虫が流れて来ていたのか不思議だった。で、ハタと思い当たった。先ほどから時々していた異臭と考え合わせると、対岸の小さな流れの上部には動物の死体があって、そこで発生したウジ虫が細流によって流されて来たのだろう、と。
 つきとめようか、やめておくか、ちょっと迷った。だが、これでも科学者のはしくれ、フライフィッシャーマンでもあるし、ちゃんとすべてを確かめることにした。そして、意を決して対岸へと渡った。
 案の定、その小さな流れの溜まりにはウジ虫がたくさん貯まって浮いていた。


 その流れを辿っていくと、あった、あった。それは鹿の死体だった。オスであり、4尖と呼ばれる立派な角が生えていた。9月8日には台風9号が上陸し、丹沢に大きな被害をもたらした。その時の出水でやられたのだろう。死体の腐り具合も時期的に一致する。


 自然の中で命は廻る。鹿の肉はウジ虫のエサとなり、ウジ虫は魚に食われる。当たり前のことだ。あの鹿の死体はあと1ヶ月は鱒のごちそうを提供し続けるだろう。
 
 僕は角を記念にもらって行くことにした。1本は簡単に抜けたが、もう一本は頭蓋骨に強く固定していて抜けなかった。いずれ鹿の死体が骨だけになれば、その時にもう1本の角ももらおう、と思っている。その場所は釣り人が普段立ち入る場所ではないので、人に取られるおそれは、ほとんどない。
 いやあ、久しぶりに面白いものを見た。そして、フライフィッシングというのは奥が深いなあ、と思った次第である。

閲覧数1,270 カテゴリ日記 コメント6 投稿日時2007/10/18 17:51
公開範囲外部公開
コメント(6)
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  • 2007/10/18 20:56
    さん
    お名前:CHIRORI

    すっごーい!!
    次項有
  • 2007/10/18 22:07
    鉛筆狂四郎さん
    やあ、CHIRORIさん:
     ちょっと面白いでしょ。
     その”すっごーい”には色んな意味が含まれていそうだねえ。オドロオドロしい、聞いたこともない、驚いた、気持ちわるーい、匂いまで感じそう、などなど。
     だが、これが真実ですゾ。
     したたかにならなくっちゃあ。
     見よ、この凄惨なフライフィッシングを!
     今度はマゴットフライmaggot flyを用意しておかなくっちゃあ。
    次項有
  • 2007/10/19 09:12
    CHIRORIさん
    昨日、「初体験」を一気に最後まで読んで、一人で「スゲーッ」と言ってました(゚ロ゚; )ビ、ビックラコイタ!!
    魚って何でも食べるんだ・・・と同時に、先生の使ったレネゲイドってどんなフライ?調べました。
    「かのヘミングウェイも好んで使ったパターンです。ミッジの集団をイミテートしたものと考えられています。」だって。魚にはウジに似て見えたのかな?
    で・・・ウジってドライフライなんですか??
    ウジの出所を確かめた先生もすっごーい!CHIRORIだったら、ストマック採った所で気絶していたでしょう(^^;小さな流れの溜まりにウジ虫なんて発見しようものなら、コマセ撒いちゃいそうです・・・
    それにしても、鹿さんはひと月ちょっとでこんな姿に・・・思った以上に土に帰るのは早いものなんですね。いやーっ、先生が言うようにフライフィッシングって奥が深いなぁ~。今度、お会いした時に、もっと詳しく話して聞かせて下さいね!
    次項有
  • 2007/10/19 10:05
    鉛筆狂四郎さん
    CHIRORIさん:
     レネゲイドを使ったのは、まさかウジを食ってるなんて思いもしなかったからね、テレストリアルが流れ込んでいると思ったもんだから、万能フライの元祖とでもいうべきレネゲイド(意味は裏切り者)を使っただけだよ。イワナはうまくダマされて釣られたというわけだ。彼はウジと間違えたというより、狂ったようにウジを食ってたから、食い気が異常に亢進して、狂って、間違えたんじゃないかな。
     すべてを確かめた後もライズは続いていて、これを釣るのは難しかったよ。ソーヤーのキラーバグが形が似ているから使ってみたが、釣れない。キラーバグは沈むからね。いっぽう、ウジは浮いているからね。クリーム色のフォーム材でフライを作ってみようと思っている。
     連れて行けと言うなら連れて行ってあげるよ。あと1月は楽しめるんじゃないかな。
    次項有
  • 2007/10/19 11:44
    S藤さん
    ほぉーーーーっ!実は8月末の遠山川支流で、やはり鹿の死骸が半分川の中に入った格好で異臭をはなっているシーンに出くわしました。その時、蛆虫は見えなかったものの、これをひっくり返しでもしたら凄いことになっているだろうなぁ、蛆虫が流されたらサカナは食うかなぁ、などと考えてしまいました。しかし先生、面白すぎますね。こんなに流されちゃってて、思いもよらないフライパターンを用意しなきゃいけないっていうのは。いやー、びっくりびっくり。
    次項有
  • 2007/10/19 11:58
    鉛筆狂四郎さん
    S藤さん:
     そうなんだよね。
     やっぱり、現場に行っていると、いろんな面白いことにぶつかるもんだねえ。
     鹿はあちこちで増えて、餌に困って飢えているらしく、木の皮を食べて、丹沢ではモミが被害を受けているそうだ。増えすぎれば飢え死にするのも出てくるだろうからね。
     今後、ウジフライは隠し持つ「秘密のパターン」になるかもネ。ハハハ。
    次項有
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