とても親切な人に会ったので、ここでその話を紹介しよう。
その日は午前中は曇りで午後は雨の予報だった。ボクはいつものように狩野川の例の場所に行ってライズ待ちをしていた。11時ごろだったろうか、小雨が降り始めていた。そのとき背後から男の声がした。
「あのー、赤いアウトバックはお宅の車ですか。運転席の窓がフルオープンになっているんですが。もしかして川野さんでしょうか?森村さんからよくお話をうかがっています」
「そうです、川野ですが。ありゃー窓が開いていましたか、ときどきやっちゃうんですよ」ボクは困った。そのままにしておくと、これから雨が強くなれば運転席はびしょ濡れになってしまう。ライズ待ちの場所から車までは300メートルくらいだが、石がゴロゴロしていて芦が乱雑に生えている河原を抜けていく必要があり、ボクの場合、息が上がって途中で一休みしなければいけない。すると、その人は
「ボクが行って窓を閉めてきますよ。車の鍵を貸してください」
と言う。
「そりゃあありがたいが、いくら何でも悪いよ」
「いや、大丈夫です。まだ若いですから」
「そうか、助かるなあ」
「あと鍵はどうしようか?」
とボクが言うとボクの困惑をみすかすように
「またここまでお持ちしますよ」
と。
「ええっ、それはまた・・・」
とまあ、驚くほどの親切にボクはどう対処していいか、わからなかった。
当然だが、彼が鍵を戻しに来てくれたとき、ボクは名刺をわたし、彼の名前や連絡先を聞いた。彼は三島の人で、狩野川がホームフィールドだそうだ。そして、夕方お互い連絡を取り合って会うことにした。
この日の釣りではライズがあって、アマゴはフライに出て空中に躍り上がったが、フライをくわえていなかった。
暗くなり、釣りをやめて車のところに戻ると、彼は友人と二人でまだ釣りをしていた。
ほぼ真っ暗であり、車まで3人同時に帰ってきた感じだった。
ボクは彼に夕食をご馳走しようかと思ったりしたが、彼の友人も一緒だったので、迷惑かもしれない。そこでボクの車のトランクにはプレゼント用にボクが出した本が1冊ずつ積んである。その中から、「フライフィッシング用語大辞典」と「水に浮くフライとその作成法」を彼に進呈することにした。とても喜んでくれたので、ほっとしたものだ。
いやあ、親切な人がいるものだなあ!
雑誌か何かで見て、ボクを覚えていてくれたようだが。
本をあげたくらいではこっちの気がすまないくらい、ありがたかった。
静岡県人は年寄りを大事にする気質があるのだろうか。
いいことです!
今度、田中山の焚き火会に彼を誘おうかな・・・
ライズ待ちのセット。これにおせんべい、ガム、キャラメルが加わる。