サイドワインダーSidewinderと呼ばれるフライがある。 それは知る人ぞ知る”釣れるフライ”あるいは”最後の頼みの綱のフライ”であり、難しいライズであらゆるフライを試しても釣れないときに、このフライに助けられたことが、僕には何度もある。このフライで鱒を釣るとウィングは壊れてしまうが、ウィングが壊れたフライでも釣れるのである! とてもシンプルなフライなんだが、ウィングの取り付けが難しい。僕や釣り仲間も巻く努力をしてみたが、結局あきらめたものだ。いろいろ聞いてみると、このフライをちゃんと作れるのはアイダホ州アイランドパークのレネ・ハロップとその家族だけだということもわかってきた。マテリアルの選別と扱い方に秘密があるらしいが・・・。 サイドワインダーの正式の名はノーハックル・ダンであり、サイドワインダーと呼んだのはデイブ・ホイットロックで、ウィングをシャンクの横にスレッドで巻き止めるからというのがその理由だったらしい。 僕は1990年代にレネ・ハロップの店でまとまった数のサイドワインダーを買い、これまでチマチマと使ってきたが、もう残りが少なくなっていた。そこで今回モンタナに行ったので、聞いて回るとジョージ・アンダーソンの店で”本物”の、ハロップ一家が巻いたサイドワインダーを売っていることがわかった。行ってみると、普通のフライは1個2.5ドルだったが、サイドワインダーは3.95ドルもした。高いと思ったが、代用がきかないので、やむを得ない。ベイティス(コカゲロウ)パターンの20番、22番、24番を買い込んできた(写真)。 ついでに、いくつかの事を書いておこう。このフライの由来を拙著「フライフィッシング用語辞典」から引用すると、このフライはダグ・スウィッシャーとカール・リチャーズが名著「セレクティブ・トラウト」(1975)の中で発表したノーハックル・パターンが基になっていて、その後マイク・ローソンとレネ・ハロップが改良を加えて完成した、いわば4人合作のフライ・パターンなのであった。完成形では、初期のパターンに比べ、ウィングの幅が広くなり、ウィングの下部のふくらみによって水面と接する面積が増え、浮きがよくなった(レネ・ハロップ談、2000/12/12)。 僕はこの経緯をレネから直接聞いた(e-mailで)わけだが、そのとき、レネが言った。 「実はダブルウィング・サイドワインダーというフライがあってね、僕が考案したんだが、ウィングが2重になっているから壊れにくいし浮きがいいんだよ。ただ、巻くのがとても難しいから、僕の歳(当時57歳)になったらもう巻けないんだよ。これまで巻いた分があと何個か残っているんだが、やや値段が張るが、買っておかないか」 と。値段を聞くと、フライ自体は30ドルだが、額に入れて装幀済み(保証書付き)だと110ドルだそうだ。で、僕はさっそく額入りを購入したのだった。貴重品なので、今回その写真をご覧にいれよう。おそらく本邦初公開だろう。 それにしても不思議なフライだ。ウィングだけで鱒を惹きつけるフライである。このダッククイルのウィングは鱒にとってよほど旨そうに見えるらしい。 |