正月2日、初釣りに行った。例によってへら鮒釣りで、釣り場は車で10分で行ける相模川にある六倉へら釣り場だ。釣り初めなので、ボクの宝物である孤舟の竹竿を使った。12尺の硬式鶺鴒、抜け、であった。 ボクが所属する釣り倶楽部があって、釣り小屋を持ち、ここには1匹のノラ猫が居着いている。タマと名付けられた雌である。倶楽部会員の一人が何年か前からかわいがり、彼は毎日釣りに来るので、そのつど餌をやっているから基本的には彼にいちばんなついている。ボクは彼の次に釣りに来る回数が多いので、ボクにも寄ってくることがあった。 この日、ボクが釣り小屋に行くと、だれも来ていなかったので、まず、タマに餌をあげて、釣りを始めた。しばらくすると、タマが釣り台にきて、ミャーと甘えた声を出す。鳴くときには触ってほしいらしく、なでてやると、嬉しそうに体をすり寄せてきてしっぽをゆっくりと振る。そのうち、ボクの足下に寝そべってしまった。しばらくすると、ミャーミャーと鳴くので、見ると、ボクを見上げてまたミャーと鳴く。そしてボクの膝に乗ろうとする。ボクの場合、あぐらはかかないで、小さな椅子に腰掛けて釣りをするので膝に乗るわけにはいかない。しつこく登ろうとするから、ボクはしかたなくダウンジャケットのジッパーを半分以上おろして、ジャケットの中の懐に抱き入れた。そこは暖かいわけで、タマは気持ちよさそうにしていた。だが、タマの顔がボクの顔のすぐ下にあるので、鉤に餌を付けようと左手を伸ばすと、ボクの顔が下がってタマのヒゲに当たってしまう。なんとも困った状況になってしまった。一度ペロリとなめられたと思う。 タマも寂しいようで、こっちもムゲに冷たくもできず、懐に猫を抱いて釣りを続けたのだった。 ボクはもともと犬党であり、猫はあまり好きではない。そんなボクにタマは寄ってきたわけで、嬉しいような、かわいそうでもあり、ちょっと迷惑でもあり、そんな複雑な気分になってしまった。 そのうちに本物の飼い主が現れたので、「ホレ、飼い主の所に行け」と言って、タマを渡り台にのせると、トコトコと飼い主の方に歩いて行った。ボクは飼い主の代理であったのだった! ま、1年の始めにあたって”好かれた”というわけで、相手が猫ではあるが、慶事ではあるだろうと思うことにしたのだった。