現役の時にはたくさんの学会に属していたが、今では2つだけだ。それは脳神経外科学会と脳腫瘍病理学会。いまやボクは「元脳外科医」であり、脳神経外科学会には行かなくなったので退会してもいいんだが、せっかく脳外科専門医の資格を持っているので、それを失いたくないから、仕方なく年会費を払っているだけだ。いっぽう、脳腫瘍病理学会はボクの研究テーマでもあり、趣味でもあるので、年1回の総会には出席している。この学会には32年前の設立当時から参加しているので、ボクは大きな顔ができるしね。これまで理事だったんだが、年令制限がきてしまい、今後は功労会員ということになるそうだ。
この学会では友人も多く、年1回、会うのを楽しみにしている。今回はシンポジウムの座長をやらされ、また、検討会ではずいぶん発言もした。現役をしりぞいてもまだまだ発言できるし、役に立っているように思っている。今回もね、口演発表の後である国立大学の教授がコメンテーターとして妙なことを言った。それは的はずれな発言であり、そのままにしておいてはまずいと思った。そこでボクは手を上げた。
「この腫瘍はxxx、ooo、yyyの所見が特徴的であり、浸潤性がきわめて高度であることを考慮するとすべての所見が納得できます。このような進展形式を持つ腫瘍は昔からGliomatosis cerebriと呼ばれてきたものとよく一致します。小脳に発生しているのでGliomatosis cerebelliと呼んでもいいかもしれません。とても珍しい貴重な症例だと思います」
と発言すると、すぐにH先生(この人は現在脳腫瘍の診断をさせたら日本のナンバー2の実力者)が立ち、
「川野先生のご意見に賛成です・・・」
と言ってくれ、アメリカから招待されていたR教授も立って、すばらしいコメントで感服しましたと言ってくれた。嬉しかったなあ。
帰りの新幹線の中で、俺も68になるが、まだまだ捨てたもんじゃないな、とニンマリしたものだ。「のぞみ」に初めて乗ったが、名古屋から新横浜まで1時間20分くらいで着いたのは驚いた。
年に1度の学問の世界を楽しみ、それなりに役目も果たしたので、明日からは心安らかにいつもの釣り生活にもどれる。今度学会で「一介の釣り人としてコメントさせてもらいます」なんて言ってみようかな。ヒンシュクをかうだろうな。