フーッ、やっと「火の鳥」全巻を読み終えた。1冊平均310ページで、13巻なので、全部で4030ページとなる。大作である。1冊読むのに2時間かかり、計26時間かかったことになる。 シリーズの名と初出年をあげておく。 黎明編 1954(漫画少年連載分) エジプト編、ギリシャ編、ローマ編(1956-1957) 黎明編 1967 既読 未来編 1967-1968 ヤマト編 1968-1969 異形編 1968-1969 宇宙編 1969 生命編 1969 鳳凰編 1969-1970 既読 復活編 1970-1971 羽衣編 1970-1971 望郷編 1976-1978 乱世編 1978-1980 太陽編 1986-1988 手塚治虫(1928- 1989)は僕の青春時代にマンガに目を向けさせた漫画家の一人であり、鉄腕アトムは子供っぽいと感じていたが、ジャングル大帝は好きだった。そして「火の鳥」に出逢った。これはこれまでのマンガと違うと感じ、印象に残った。今回、手塚のライフワークと言われている「火の鳥」全巻を読んで、彼が火の鳥で何を言いたかったかを知りたいと思った。僕が「火の鳥・黎明編」を読んだのは1970年頃であり、今回39年振りに読み直したことになる。いま、読み終わった僕の頭の中は膨大な内容に圧倒され、混乱している。だが、いままとめておかないと、印象が薄れてしまいそうなので、あえて感想を整理しておきたい。 彼はよく調べ、おもしろく、読む人を飽きさせない話に仕立てて、たくさんの物語を描いた。それぞれの話の時代は古代エジプト(BC30世紀)から未来(AD30世紀)まで幅が広い。過去の話もおもしろいが、未来を舞台にした話がことによくできていると思う。ウム、そうかもしらんなと感じたものだ。 問題はすべての話に出てくる火の鳥だ。この不死鳥は寿命が3000年とされ、火の鳥の生き血を飲むと不老不死になるので、人間は血相変えて追い求めることになる。人間の究極の欲である不老不死、それを救済することができる火の鳥。この夢物語を壮大なスケールで描いたのが漫画「火の鳥」であった。 火の鳥とは何か、手塚は火の鳥に何を見ていたのか、という大きな疑問が残った。僕は著者がこんなふうに言っているような気がする。 「火の鳥なんてほんとうに居るかって?居るはずがありません。けれど、人類の歴史、生き物の生命、さらには地球、宇宙、と考えると、これらのすべてを見守っている何か普遍的な存在がありそうな気がしませんか?それは何なのか、僕には分かるはずもないですし、おそらく誰にもわからないでしょう。それを火の鳥にしてみたんですよ」、と。 手塚の火の鳥は古代エジプトのBenu、中国の鳳凰、インドのGaruda、ギリシャ神話のPhoenixをミックスして作り上げられたもののようで、その話のスケールは遙かに大きい。 漫画「火の鳥」はゼッタイにオススメという本ではない。結論の無い、不思議なお話なのだから。ただ、遊び心とロマンにあふれた著者が作り出した、他に類例を見ないSFワールドを体験してみるのも一興ではないだろうか。また、読み終わった後に、なぜか救われたような不思議な感覚が残った。全体に流れる輪廻転生の思想のゆえか、あまりにスケールが大きいので人間の一生なんてチョンの間なんだと感じるからか、それはわからないが。もし人類遺産というカテゴリーがあれば、推薦したい本だと僕は思った。 |