食い波、男波、女波、引き込み波、という言葉を皆さん聞いたことがあるだろうか?これは郡上八幡の職漁師が使った言葉でね、面白いから僕の「フライフィッシング用語辞典」にもとりあげて、解説してある。まだ読んでいない人のために書き抜いておこう。知っている人は読み飛ばしてほしい。 くいなみ(食い波) 岐阜県、郡上八幡の職漁師が使う釣り用語。渓流では水平方向および垂直方向の3次元の複雑な流れがあるが、アマゴは餌の流れてくる流れを知っており、その流れにいて餌をとる。その流れを食い波と呼ぶ。最初に食い波という言い方を使ったのは名人・桜井銀治郎だといわれている。 食い波は季節、水温、水量によってその場所が変わる。その日の食い波の場所を正確に知って、釣り師は食い波に餌(またはニンフ)を流して初めてアマゴが釣れるわけである。この食い波は引きこみ波(引き波)であることが多い(古田万吉、恩田俊雄)。菱田與一は女波(めなみ:水面から水底へ向かう流れ)という言い方を使っている。 食い波をフライフィッシング的に言うと、ニンフのフィーディング・レーンと言っていいだろう。この概念はニンフ・フィッシングだけではなく、ドライフライ・フィッシングをする上でもきわめて重要だと思われる。日本のネイティブ・トラウトのプロ・フィッシャーマンの経験のエキスをフライフィッシングで使わないテはない。 おなみ(男波)・めなみ(女波) 岐阜県、郡上八幡の職漁師が使う言葉。個々の釣り師によってその意味するところがやや異なっているようだ。波は流れ、水流といった意味。 菱田與一は渓流において水流が水底から水面に向かっている、つまり、上昇している水流を男波と呼び、逆に水面から水底に向かう水流を女波と呼んでいる。男波には魚はいず、女波に餌を流せばアマゴが釣れる。この女波はアマゴが食う流れなので、食い波である。 恩田俊雄は流心の三角波が立っている早い流れを男波と呼び、男波の両脇のやや緩やかな流れを女波と呼んだ。多くの釣り人が女波を釣るので恩田は男波を好んで釣ったようだ。男波には大物がいるが流れが早いので深みに餌を流すのは難しく、サモト(落ち込みのソデ)の引きこみ波、すなわち食い波に餌を自然に乗せることが大事だと言っている。 菱田は垂直方向の流れ、恩田は水平方向の流れに対して男波・女波という表現を使っているわけで、言葉の使い方は違うが、本質的な食い波について別のことを言っているわけではない。水中に引き込まれる流れに餌を自然に流すべきだ、という点に関してはまったく同じことを言っている。 ひきこみなみ(引きこみ波) 岐阜県、郡上八幡の職漁師が使う釣り人用語。渓流には水平方向および垂直方向の、合わせて3次元の複雑な流れがあるが、水面から水底に向かう流れを恩田俊雄氏は引きこみ波あるいは引き波と呼んだ。引きこみ波は水面の虫を水中に引き込むので、その流れではアマゴが待ちかまえている。つまり食い波になっているので、この流れに餌を乗せれば餌は自然に水底に向かって流れ、釣れることになる。ことに流心の男波には大物のアマゴがいるものだが、たいていは深みにいるので、餌をアマゴのいるところに送り込むのが難しいが、サモト(落ち込みのソデ)の引きこみ波に餌をのせてやれば、自然に男波直下に流れていくものだ、とも述べている。 この恩田氏の言う引きこみ波は菱田氏の言う女波(めなみ)とほぼ同じものではないか、と筆者は思っている。このような考え方はフライフィッシャーマンにとってもきわめて重要であり、学ぶことが多い。 この言葉は欧米ではもちろん知られていないし、その内容はフライフィッシングにとても役に立つので、英語に訳してアメリカの釣り雑誌に投稿してみようかと思いついた次第だ。どうせなら広く読まれているフライフィッシャーマンあたりにしようかと目論んでいる。このシルバーウィークには遠出をする予定はないので、英訳に励んでみようかと思っている。 これまでに欧米の釣り雑誌に日本人が書いた文章が掲載されたことは無い、と思う。僕が第一号になるのも愉快じゃないか、と思っている。欲しいのはいいイラストレーターだ。川の流れを3次元で書いてくれる人がほしいな。心当たりのある方は連絡してくれ。 |