黒澤明の映画「デルス・ウザーラ」の原作を読んだ。書名は「デルスウ・ウザーラ」、副題は沿海州探検行。著者はアルセーニエフ、訳者は長谷川四郎。初版は1965年、平凡社から出ている。 1906-7年、ロシア沿海州の探検記録であり、隊長を務めたアルセーニエフの日記風につづられている。もっぱらXX川を遡って源流まで行って、山があれば山頂まで行って、ふたたび海岸まで戻ってくるということを繰り返している。案内を務めたのがゴリド人のデルス・ウザーラであった。デルスは漁師であり、一人で山に住んでいる。彼にとって自然の太陽、月、星、雨、樹木、川、獣や鳥は”人”であり、ともに仲良く生きていこうと考えている。他国の人とも仲良くしていきたいと願っている。ロシア人のアルセーニエフはデルスの自然の中で生き抜く知恵にくわえて、彼のやさしさ、賢さに敬服し、友人として接するようになっていく。探検隊の隊員たちはデルスの文明度の低さをバカにするが、隊長のアルセーニエフはデルスの生き方・考え方が”原始から受け継がれてきた人の生き方の本質”に根付いていることを認識していたのだった。 僕はデルスの考え方がモンゴルや日本と共通点が多いことに驚いたものだ。黒澤明はそのことにも気づいていたに違いない。 本は探検の記録でもあり、植物・動物・鉱物の記述が多く、単調なので読み進めるのにやや努力を要するが、読み終わって、この本の主人公はやはりデルス・ウザーラであることを確信したのだった。 釣りは自然の中に分け入る行為であり、マタギには大いに興味がある。そして、マタギとデルスの生き方がまことに良く似ているのである。そして便利で複雑になった現在、デルスの言動は何やら懐かしさのような雰囲気をともなって我々に響いてくるような気がする。 |