アメリカ、モンタナ州に住むトム・モーガンは2009年、一冊の本を作った。トム・モーガンは言わずと知れた名ロッド・ビルダーで、ウィンストン社の社長を長くやっていたが、持ち前の職人気質を生かすべく、1991年に独立してトム・モーガン・ロッドスミスを立ち上げ、竿作りをやってきた。ウィンストン時代にストーカーというグラスファイバーの名竿を作ったこともよく知られている。グラス竿を作るに当たって彼は当時最高のロッドビルダーであったラス・ピークに会いに行って教えを請い、彼から1本の竿を買った。その竿が今は僕の手元にある。その経緯を僕は釣り雑誌に書いたことがあるが、それ以来、トムとは友人に近い関係になっていると思っている。 ところで、彼は、十数年前から、多発性硬化症という神経難病にかかっている。手足の麻痺が出没しながら次第に進行する病気であり、有効な治療薬はまだ見つかっていない。今ではベッドに寝たきりで、食事の時に30分間だけ上半身を起こしていられるらしく、奥さんのジェリーが献身的に看護している。 その彼が昨年自分自身で本を作った。タイトルは「Favorite Flies, Favorite Waters(私の好きなフライと好きな川)」。彼はモンタナ州エニスで生まれ、子どもの頃からフライフィッシングをやり、ついにはフィッシング・ガイドまでやるようになった人であり、自分自身の釣りの話を書いておきたかったのだ。体調から考えて本作りは一度しかやれないので、特別の本を作ったというわけだ。この本はすべてが特別に作られている。本自体は片手に収まるほど小さいが、ジェリーは製本の専門家であり、紙はイタリアの特別の紙を取り寄せた。製本は綴じていないで、アコーディオンのように折ってあるのだ!本には12のフライとそれにまつわる話が書いてあり、その話がまたとても面白い。また、12の本物のフライが付いてくるが、それらのフライはレネ・ハロップ、クレイグ・マシューズらに頼んで巻いてもらったオリジナル・パターンである。そして、本とフライは木の箱に収められている。この箱がまた美しい。専門家によるとセイヨウオニグルミではないかとのことだ。密度の濃い重い木でできていて、とても丁寧に作ってある。 この本が2009年に出たことを僕は知っていたが、買おうか買うまいか、僕は迷ったものだ。欲しいことは当然なんだが、問題は値段であり、1冊が10万円を越えるのだから。僕はしばし迷い、エイヤッと心を決めて注文したのだった。約6ヶ月後に贈られてきた本を見て、僕はその贅沢な作りに驚いたのだった。限定出版本であり、送られてきた分にはNo. 49と書いてあった。 ま、贅沢さはさておき、僕は本の内容にいたく感銘を受けた。ページ数は少ないが、内容が濃く、とてもおもしろい、釣り人の役に立つ話が書かれている。 掛川や僕の友人の皆さん、読みたい人は言ってくれ。おいそれと読める本ではないので、日本語訳をスキャナーで取り込んでPDFファイルで送ってあげるよ。ただし10メガ以上あるので、データ送信サービスを使うことになるが。 |