今日、外来で、いつも来ているオジサンが、脇の下を見せて、 「先生、ここに疣ができて取ってほしいんだけど」 と言う。 「うむ、確かにあるねえ。放っておいてもいいんだけどなあ。皮膚科で冷凍してもらった方が楽だけど。取ってほしけりゃあ、取るのは簡単だけどね」 というと、別の病院に行くのは嫌らしく、 「取ってください」 と言う。 で、局所麻酔で切り取ることになった。手術は極めて簡単であり、メスで切り取って4針ほど縫うだけ。やっている最中に面白いことを言う。 「先生ねえ、私は切られ与三郎なんですよ。これまで8回も手術をした」 「ほほう、切られ与三郎ねえ、なつかしい言葉を聞くなあ」 局所麻酔をする。 介助をしていたO形君というナースに 「知ってる?切られ与三郎って」 と聞くと 「いいええ、知りません。聞いたこともないです」 「ええっ、知らない!それじゃあ”お富さん”って歌も知らないの?」 「知りませんよ(私は若いんですからと言いたそうだった)」 メスで疣ごと皮膚を切り取る。 オジサンがちょっと歌った。 「粋な黒塀、見越しの松に、あだな姿の洗い髪・・・」 「おう、春日八郎ですナ」 皮膚を縫い始める。 「O君は春日八郎は?」 「それも知りません」 僕の手は動いていて、最後の縫合が終わった。 という具合で、おしゃべりしている間に手術が終わってしまったのだった。 お富さんと言えば三国連太郎が出演した「息子」という映画を思い出す。 オヤジが雪深い里の家で、一人で、お富さんを切れ切れに歌いながら何かやっていたシーンがまざまざと思い出された。 いい映画だった。 |