5月3日、マタウラの釣り3日目(最終日)。ニュージーランドは大きな高気圧におおわれ、当分安定した天気が続くらしい。この日が釣りの最終日であり、気合いを入れて出発したものだった。ま、昨日いい釣りができたので、心に余裕はあった。 午前中は例によって時間つぶしで、あちこち見て回ったり、ニンフ・フィッシングをやり、午後はやや下流に行った。そこはシット・アンド・フィッシュ(座って釣る)というポイントで、川岸に腰掛けて目の前のライズを釣る場所だそうだ。昼食を食べ、ボク一人がそこに残り、Y田さんとデイビッドは100メートルほど下流の方に行った。 1時半頃だったろうか、カゲロウが流れ出し、ライズが始まった。そこは水面がフラットな流れなのでライズがとてもわかりやすい。心に余裕のあるボクとしては、まず、ライズの写真を撮りたいと思った。これがなかなか巧く撮れないでネ。それから水面のカゲロウやフライの写真を撮ったりした。ライズがどのくらい続くか予測不能なので気が焦ったなあ。 そして、そそくさと釣りを始めた。フライはまたしてもストリームサイド・スペシャルがアタリで、面白いように釣れた。4匹釣ったとき、ようし、二桁釣ってやるぞと思った。それからは”鬼のように”釣った。そして10匹めが掛かったとき、ヤッタァと思った。サイズはほぼ45-50センチメートル。うちの1匹はそれほど大きくはなかったが、とても鮮やかな色をしていた。一服入れて、その後数匹釣れたかもしれないが、よくおぼえていない。よっぽど興奮していたんだろうな。もし、写真を撮らなかったら、もっとたくさん釣れていたことは間違いない。 このライズは1時間くらいは続いたんだろう。それまでは静かに川が流れているだけだったのが、急にライズが始まり、1時間ほどで収まって、もとの静けさにもどってしまった。まさに「1時間のショータイム」、開高流に言うと「生命の躍動と爆発・歓喜の1時間」だろうか。終わった後は、釣り人は精魂を使い果たし、呆けたように、陶然と幸せに包まれて河原に立ちつづけていたのだった。なにも要らない。今が人生でいちばん幸せだと感じていた。そして、この日の夕焼けはちょっと特別であり、陽光が真上にVサインのように赤い光の束になっていた。聞くと、Y田さんもいい釣りで、たくさん釣ったらしい。 夕食の後、例によって酒を飲んだが、Y田さんの口数がやや少ないような気がした。いつもならもっとしゃべるんだが・・・。彼も今日の釣りに圧倒されて、処理しきれない状態だったんじゃないだろうか。言いたい事がたくさんありすぎて、何から言っていいかわからず、言葉にならない、そんな気がした。 デイビッドの方は、その日、ボクの竿を振って惚れ込んでしまい、何度も竿をほめていた。竿はハーディーのジーナスZenith、9フィート、5番であり、昨年のジョージ・アンダーソンがやっているグラファイト・ロッド・トライアウトでダントツの1位になった竿だ。デイビッドは「これまで色んな竿を振ってきたが、あまり硬い竿は好きじゃないんだ。この竿は理想的なんだよ」と、さっそく安く手に入れる方法を調べると言っていた。 そんなふうで、マタウラ最後の夜もふけていった。